相続税の「簡易な接触」が来たときの実務対応― 実地調査に発展させないために意識すべきこと ―

税理士
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近年の相続税調査では、税務署による「簡易な接触」が大幅に増えています。
電話や文書による問い合わせ、来署依頼といった比較的軽い形で行われますが、対応を誤ると実地調査に発展する可能性もあります。

簡易な接触は、決して形式的な確認ではありません。
本記事では、簡易な接触の位置づけを整理したうえで、実務上どのように対応すべきかを解説します。

「簡易な接触」とは何か

簡易な接触とは、実地調査に先立ち、あるいは実地調査を行わずに行われる確認手続です。
具体的には、次のような形があります。

・申告内容に関する文書でのお尋ね
・税務署からの電話による確認
・税務署への来署依頼による面接

令和6事務年度では、この簡易な接触だけで2万件超が実施され、追徴税額も過去最高となっています。
国税庁としては、効率的に申告漏れを把握する手段として、重要な位置づけにあるといえます。

「軽い対応でよい」と考えるのは危険

簡易な接触という名称から、「実地調査ほど重くない」「簡単に答えれば終わる」と受け取られがちです。
しかし、実務的には次の点に注意が必要です。

簡易な接触は、
・すでに一定の情報分析が行われた後
・疑問点が具体的に絞り込まれた状態
で行われることがほとんどです。

つまり、「何も根拠がなく聞かれている」のではなく、
「確認すれば是正できる可能性がある」と判断された案件であるケースが多いのです。

実務対応① その場で即答しない

電話による接触で特に多いのが、「今お時間よろしいですか」という形で始まる確認です。
この場合、原則として即答は避けるべきです。

相続税申告は、
・財産評価
・名義と実質の関係
・過去の資金移動
などが複雑に絡みます。

記憶だけで回答すると、事実関係を誤って伝えてしまうリスクがあります。
「資料を確認して改めて回答したい」と伝え、回答期限を確認することが重要です。

実務対応② 質問の「意図」を整理する

簡易な接触では、質問事項が限定的に示されることが多くあります。
例えば、
・預金の動き
・不動産の取得経緯
・生前贈与の有無
などです。

ここで重要なのは、「聞かれている事実」と「その背景にある論点」を分けて考えることです。
単なる事実確認なのか、評価や帰属を問題にしているのかによって、回答の組み立ては変わります。

実務対応③ 資料は整理して提出する

資料提出を求められた場合、
・求められている資料
・補足説明が必要な資料
を整理したうえで提出することが大切です。

必要以上の資料を一括で提出すると、新たな論点を生むことがあります。
一方で、説明が不足すると「不十分」と判断され、実地調査につながることもあります。

資料提出は、「質問に対する説明が完結しているか」という視点で準備します。

実務対応④ 専門家関与のタイミング

簡易な接触の段階であっても、次のような場合には専門家関与を検討すべきです。

・過去の贈与や資金移動が多い
・名義預金の可能性がある
・海外資産が関係している
・評価額の判断が微妙な財産がある

簡易な接触は、修正申告で終わる場合もあれば、調査に発展する分岐点でもあります。
早い段階での整理が、結果的に負担を軽減することにつながります。

実地調査に発展するケースの特徴

簡易な接触から実地調査に移行するケースには、共通点があります。

・回答内容が一貫していない
・資料提出が遅れる、または不十分
・説明と申告内容に齟齬がある
・質問の範囲を超えた論点が見つかる

逆に言えば、簡易な接触の段階で論点整理ができれば、実地調査を回避できる可能性もあります。

結論

相続税の簡易な接触は、「調査の前段階」ではなく、「調査の一部」と捉える必要があります。
対応次第で、
・軽微な修正で終わるか
・本格的な実地調査に進むか
が分かれる重要な局面です。

落ち着いて事実を整理し、質問の意図を踏まえた説明を行うことが、最大の防御策となります。


参考

・税のしるべ「6事務年度の相続税調査状況、追徴税額は12.3%増の962億円」(2025年12月22日)
・国税庁「相続税の調査状況に関する公表資料」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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