日本の家計金融資産に占める現預金の比率が、18年ぶりに50%を下回りました。日銀が公表した資金循環統計によると、2025年9月末時点で現預金比率は49.1%となり、2007年以来の水準です。
家計金融資産全体は過去最高の2286兆円に達する一方、資金の向かう先は着実に変化しています。この数字は、単なる統計上の変動ではなく、日本の家計行動が大きな転換点に差しかかっていることを示しています。
現預金が「安全資産」でなくなりつつある背景
これまで日本の家計は、現預金を中心とした極めて保守的な資産構成を維持してきました。長期にわたるデフレと超低金利の下では、預金は「減らない資産」として機能していたからです。
しかし現在は状況が異なります。足元では3%前後のインフレ率が定着しつつあり、金利がほとんど付かない預金は、名目では減らなくとも実質価値は確実に目減りします。
現預金の比率低下は、家計がこの「実質目減り」に気付き始めた結果と見ることができます。
資金の移動先――株式・投資信託・債券
資金循環統計を見ると、現預金の伸びが鈍化する一方で、株式や投資信託の残高は大きく増加しています。株式等は前年同期比19.3%増、投資信託は21.1%増と、いずれも過去最高を更新しました。
背景の一つが新NISAの普及です。非課税制度を通じて、投資が「一部の人のもの」から「多くの家計にとって現実的な選択肢」へと広がりつつあります。
加えて、個人向け国債や社債といった債券への資金流入も目立ちます。金利上昇局面では、元本リスクを抑えつつインフレに一定程度対応できる商品への関心が高まるのは自然な流れです。
米欧との比較が示す日本の現在地
それでも、日本の家計資産構成は国際的に見ると依然として現預金偏重です。米国では家計金融資産の約半分が株式や投資信託で占められ、現預金は1割程度にとどまります。欧州でも、株・投信と現預金がいずれも3割超という比較的バランスの取れた構成です。
これに対し、日本は現預金が依然として5割近くを占め、株式・投信は2割弱にすぎません。今回の50%割れは象徴的な数字ではあるものの、構造的にはまだ「第一歩」に過ぎないとも言えます。
インフレ時代に広がる家計格差
インフレが定着し、株価が上昇する局面では、「投資をしているかどうか」が家計の将来に大きな差を生みやすくなります。
現預金だけを保有している家計は、実質的な購買力の低下をそのまま受け止めることになります。一方、リスクを管理しながら資産運用を行っている家計は、インフレによる負の影響をある程度相殺できます。
この差は短期では見えにくくても、数年、十数年という時間軸で見ると無視できないものになります。
「投資か預金か」ではなく「配分」の問題
重要なのは、預金を全否定することではありません。生活防衛資金や短期資金としての現預金は、今後も不可欠です。
問われているのは、「すべてを預金に置くか」「すべてを投資に回すか」という二択ではなく、インフレ環境を前提とした資産配分をどう設計するかです。
現預金・株式・投資信託・債券などを目的別に整理し、役割を分けて持つという発想が、これまで以上に重要になっています。
結論
現預金比率が18年ぶりに50%を割り込んだという事実は、日本の家計がようやくインフレ時代に適応し始めた兆しといえます。
ただし、日本の家計全体としては、依然として大きな見直し余地を残しています。インフレが続く社会では、「何もしないこと」自体がリスクになり得ます。
これからの資産形成に求められるのは、過度なリスク追求ではなく、環境変化を踏まえた冷静な配分の見直しです。現預金50%割れは、その出発点に立ったことを示す数字なのかもしれません。
参考
・日本銀行「資金循環統計(2025年7~9月期)」
・日本経済新聞「現預金、18年ぶり50%割れ 9月末」(2025年12月18日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

