軽減税率(食品・新聞に適用される8%税率)は、2019年の消費税10%導入時に逆進性対策として導入され、現在も続いています。一方で、軽減税率は制度の複雑化、税収減、事務負担の増大といった問題が顕在化しており、2026〜27年度の税制改正では「廃止論」や「縮小論」が再び注目されています。
また、AI・電子インボイス・デジタル帳簿保存法などの普及により、制度全体の簡素化が強く求められるなか、軽減税率の存在は税制合理化の妨げとなっているとの指摘もあります。
本稿では、軽減税率が抱える課題、廃止が議論される背景、その代替案として考えられる政策について整理し、税制全体の方向性を読み解いていきます。
1 軽減税率は何を目的として導入されたのか
軽減税率の目的は主に次の二つです。
(1)逆進性の緩和
食品は生活必需品であり、低所得者ほど消費割合が高い傾向があるため、税率を低くすることで負担を軽減するという考え方です。
(2)消費税10%への移行を円滑にする
増税の心理的抵抗を減らすための政治的配慮として導入された側面があります。
しかし、制度導入から数年が経過し、軽減税率の有効性と持続可能性が改めて問われています。
2 軽減税率の現在の課題
軽減税率の廃止論には明確な根拠があります。主な問題は以下の通りです。
(1)逆進性対策として実効性が乏しい
低所得者だけでなく、高所得者も同じように食品を購入するため、
・減税効果の多くを高所得層が受け取る
という逆効果が発生しています。
(2)制度が複雑で、事務負担が増大
外食・テイクアウト・コンビニの飲食スペースなど、税率判定が煩雑で、事業者・税務署双方の事務負担が増えています。
(3)税収を減らす
軽減税率により、年間約1兆円規模の税収が減少しています。社会保障財源として消費税を位置付ける日本にとっては大きな影響です。
(4)インボイス制度との整合性が悪い
インボイス制度では商品ごとの税率を正確に把握する必要があり、軽減税率が制度の複雑さに拍車をかけています。
(5)国際的にも例外扱い
欧州でも軽減税率はあるものの、近年は「効率性を損なう」として縮小傾向にあります。
これらの理由から、制度の抜本見直しが必要との指摘が増えています。
3 廃止論が強まる背景:税制の簡素化・公平性・持続可能性
2026〜27年度に軽減税率の廃止論が強まる背景には、日本固有の事情があります。
(1)AI・電子インボイスを前提とした税制の再構築
税務実務のデジタル化が進む中、軽減税率はデータ構造を複雑にし、効率化の妨げとなっています。
(2)社会保障財源の逼迫
税収減の影響は大きく、将来の財源確保のためには制度全体の見直しが不可避です。
(3)逆進性対策として非効率
逆進性の緩和には直接給付の方が効果的であり、軽減税率は“コストのわりに効果が薄い”と指摘されています。
(4)制度の恒久化が経済歪みを生む
外食・テイクアウトの区別など経済活動の線引きが、過度に税制に依存する状態となっています。
これらの構造的問題から、廃止論は今後より強まると見られています。
4 代替案として有力な三つの政策
軽減税率の廃止とセットで議論されるのが、主に次の三つの政策です。
① 給付付き税額控除(最有力案)
軽減税率の代替として最も効果が高いとされるのがこの制度です。
【特徴】
・所得に応じて減税額を調整できる
・低所得者により大きな支援が可能
・逆進性の解消効果が高い
【利点】
・軽減税率より公平性が高い
・ターゲットを絞った支援が可能
・消費税率を1本化でき、制度が簡素化される
所得情報のリアルタイム把握が進むにつれ、導入可能性は高まっています。
② 食品クーポン・キャッシュバック型給付
海外でも採用例が増えており、特定の支出に対して給付を行う制度です。
【特徴】
・食品・生活必需品に限定した支援
・給付対象を柔軟に設定できる
・経済対策としても機能
税制と社会保障の境界を滑らかにし、政策効果が測りやすいという利点があります。
③ 生活必需品に限定した“狭い軽減税率”への縮小
全面廃止ではなく、対象を絞る案です。
【例】
・米、パン、乳製品など本当に最低限の食品のみ対象
・外食・加工食品は通常税率
ただし、制度複雑化の問題は依然として残るため、優先度は高くありません。
5 軽減税率廃止後の税制はどうなるか
軽減税率を廃止すれば、消費税は10%一本化され、制度は大幅に簡素化されます。
(1)インボイス制度が大幅に楽になる
税率判定の誤りが減り、AI仕訳・電子インボイスとの整合性が高まります。
(2)税収が増え、社会保障財源が安定
廃止により約1兆円の税収増が見込まれ、持続可能性が高まります。
(3)給付制度との連動が進む
税と社会保障を一体化した「調整可能な逆進性対策」が可能になります。
(4)税制の透明性が向上
税率が一本化されることで、企業・家庭の税負担が明確になります。
制度全体の合理化という意味で、軽減税率廃止は大きな効果を持ちます。
結論
軽減税率は逆進性緩和を目的として導入されたものの、実務負担の増大、税収減、制度の複雑化など、多くの問題を抱えています。2026〜27年度の税制改正では、給付付き税額控除などの代替制度とセットで廃止論が本格化する可能性があります。
税制の簡素化、公平性、財源確保、デジタル化との親和性を考慮すれば、軽減税率の見直しは避けられないテーマです。制度の合理化を進めつつ、必要な支援を迅速かつ的確に提供できる仕組みへ移行することが求められています。
次回(第8回)は、「電子インボイス・AI時代の消費税:実務の未来」を取り上げます。
参考
日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
