法人税改正2026を読み解く 第8回 電子帳簿保存法・AI会計・DXが変える法人税務の未来

税理士
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2026年度の法人税改正を読み解くうえで欠かせないテーマが、企業のデジタル化、特に電子帳簿保存法・AI会計・業務DXの進展です。税務の世界は今、大きな転換点を迎えており、
・電子データの保存義務
・AIを用いた経費仕訳や調査対象の選別
・電子インボイスの普及
などが一体となって、企業の税務実務そのものが再構築されつつあります。

税務調査の精度はAIによって高まり、帳簿の透明性は電子化によって一段と求められます。企業は「紙の時代の税務」から、「データとAIで税務が進む時代」へと対応を迫られています。

本稿では、
・電子帳簿保存法の位置づけ
・AI会計が広げる自動化の可能性
・国税庁のデジタル化が企業に与える影響
・DXと税務機能の統合
・企業が今から備えるべきこと
を整理します。

1 電子帳簿保存法は“税務DX”の基盤になる

電子帳簿保存法は、紙の領収書や帳簿を電子保存できる制度から始まりましたが、現在は企業のDX推進を後押しする重要な法律として位置付けられています。


(1)電子データ保存が前提の時代へ

電子帳簿保存法の改正により、
・電子取引データの電子保存義務化
・紙保存から電子保存への移行
が進みました。

企業は、
・電子インボイス
・電子契約
・クラウド会計
といったデジタルデータを一貫して管理する必要があります。


(2)法人税と電子帳簿保存法は密接に連動

電子保存の要件を満たすかどうかは、そのまま法人税の
・帳簿の信頼性
・証拠力
・税務調査対応
に直結します。

電子帳簿保存法は、単なる“保存方法の話”ではなく、税務ガバナンスの基盤そのものです。


(3)2026年度以降は「紙中心の経理」ではリスクになる

証憑の電子化が標準化すると、紙を中心にした運用では、
・情報の遅延
・検索性の欠如
・内部統制の弱さ
が露呈します。

税務調査でも電子データを前提にした分析が行われるため、今後、紙中心の経理は税務リスクの一因になりえます。


2 AI会計が企業の税務実務を変える

AIを活用した会計ソフトは、経理・税務の世界に大きな変化をもたらしています。


(1)仕訳の自動化が“標準化”へ

AIが領収書や請求書の情報を読み取り、
・勘定科目の選択
・税区分の判断
・仕訳の自動作成
を行うことが一般化しつつあります。

これにより、経理担当者は
「入力作業」から「数字の分析・確認」へと役割が転換します。


(2)税務調査のAI化

国税庁もAIを活用し、
・調査対象法人の抽出
・過年度との比較
・異常値検出
などを実施しています。

AIを使う企業と、AIを使わない企業の税務リスクには差が生まれ、
「データが整っていない企業」は調査で不利になる可能性があります。


(3)AIの学習と内部統制

AIは自動化を可能にする一方で、
・誤判定をどう防ぐか
・承認フローをどう設計するか
など、人の判断とAIの役割分担が重要となります。

税務上のリスクを最小化するためには、
“AI+内部統制”という組み合わせが不可欠です。


3 電子インボイスの普及が法人税務の透明性を高める

2023年に導入されたインボイス制度は、電子化によってさらに進化しつつあります。


(1)電子インボイスの導入は企業間取引を変える

電子インボイスは、
・取引データの正確性
・消費税の適正処理
・会計システムへの自動反映
を可能にします。

これにより、法人税の計算に必要な取引情報も一段と正確になります。


(2)消費税と法人税のデータ連携が進む

電子インボイス・クラウド会計・電子帳簿保存法が統合されると、
・売上
・仕入
・経費
などの情報が自動的に紐づきます。

税務調査では、
「消費税データと法人税データに矛盾がないか」
がAIにより即座にチェックされます。


(3)証憑の透明性が高まる

従来の紙運用ではグレーな運用も存在しましたが、
電子インボイスにより“証憑の透明性”が高まり、
不正リスクが下がる一方、処理の厳格化が求められます。


4 企業の税務部門は“データ統合部門”へ変わる

デジタル化の進展により、税務部門の役割は大きく変わります。


(1)データの収集・整備が中心業務に

これからの税務部門は、
・データ精度の確保
・会計システムとの連携
・内部統制の整備
が重要になります。


(2)DXと税務の統合が加速

税務はもはや専門部門だけの領域ではなく、
・経理
・情報システム
・経営企画
が一体となって運用する領域へ成長しています。


(3)税務の役割は“経営への示唆”へ

AI自動化によって作業が減ると、税務部門の価値は
「分析と判断」に移ります。

・税負担の最適化
・投資戦略との整合性
・国際税務リスクの可視化
など、経営に近い役割が求められます。


5 企業が今から備えるべき五つの実務ポイント

デジタル化・AI・電子化を前提にした税務運営に向けて、企業は次の準備を進める必要があります。


(1)電子帳簿保存法への完全対応

・検索要件
・タイムスタンプ
・内部統制
などを満たしているかを確認し、不備があれば早期の是正が必要です。


(2)AI会計ツールの導入とルール整備

AIは導入して終わりではなく、
・入力ルール
・チェックフロー
・誤判定対応
など運用ルールの整備が不可欠です。


(3)電子インボイス対応の徹底

取引先との連携を含め、電子インボイスの運用を標準化する必要があります。
仕入税額控除と法人税計算のデータが自動リンクする仕組み作りも重要です。


(4)データ品質の管理

AI・電子化は「データが正しいこと」が前提です。
・重複
・欠損
・誤入力
などを防ぐ体制の構築が不可欠です。


(5)税務部門とシステム部門の共同体制

税務DXは税務だけでは進められないため、
・システム担当との連携
・経営企画との調整
・グループ会社との統一運用
が成功の鍵となります。


結論

電子帳簿保存法・AI会計・電子インボイスの普及により、法人税務の世界は“データとAIが主役”の時代へ移行しています。
2026年度の法人税改正では、こうしたデジタル化を前提とした制度運用がより明確になり、企業にはこれまで以上に透明性と正確性が求められます。

税務の役割は、作業から判断へ、整理から分析へと大きく変わり、企業は
・データ基盤の整備
・AIの活用
・税務と経営の結びつけ
を通じて、新しい税務ガバナンスを構築する必要があります。

次回(第9回)は 法人税改革が企業経営に与える本質的変化 を取り上げます。


参考

日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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