法人税改正2026を読み解く 第7回 国際課税の大転換:グローバルミニマム税制(最低税率15%)の定着と日本企業への影響

税理士
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2024年から導入が始まった「グローバルミニマム税制(Pillar2)」は、2026年度の法人税改正にかけて、いよいよ本格的な実務段階へ移行します。最低税率15%を世界共通の基準とするこの制度は、多国籍企業の税負担を適正化し、国家間の「税率競争」を抑制することを目的とした国際的な枠組みです。

日本企業にとっては、
・海外子会社を含むグローバル税務の再設計
・財務データの基盤構築
・税務リスク管理の強化
など、単なる税率変更以上の大きな影響があります。また、日本の法人税制も、この国際ルールとの整合性が避けられず、2026年度改正に向けて制度の微調整が進むと見られています。

本稿では、
・最低税率15%とは何か
・日本企業にどんな影響があるのか
・Pillar2の具体的な仕組み
・今後の税制改正の方向性
・企業が今から備えるべき実務ポイント
を整理し、日本企業が直面する国際課税の新しい姿を読み解きます。

1 最低税率15%とは何か:国際合意の目的と背景

最低税率15%は、OECD・G20が合意した「Pillar2(グローバルミニマム課税)」の中心的なルールです。


(1)目的

・多国籍企業による税負担の過度な軽減を防ぐ
・国家間の税率引き下げ競争を抑制
・企業の利益移転(タックスヘイブンへの移転)を抑える
・公平な税負担を確保
といった国際的な課題への対応を目的としています。


(2)対象となる企業

一般に、
・連結売上高が7.5億ユーロ(約1,200億円)以上
の多国籍企業が対象ですが、間接的な影響は幅広く中堅企業にも及びます。


(3)背景

近年、グローバル化の進展により、企業が税率の低い国に利益を移転する手法が問題視されてきました。
これに対し、EU・英国・日本・韓国など主要国が相次いでPillar2を導入し、世界全体のルールが整備されつつあります。


2 Pillar2の仕組み:3つのルールが柱になる

最低税率15%を実現するために、Pillar2は複数の課税ルールで構成されています。


(1)所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)

親会社が所在する国で、
海外子会社の実効税率が15%未満であれば、
その差額を追加で課税する仕組みです。


(2)アンダータックストペイメントルール(UTPR)

IIRでは取りきれなかった追加税を、
企業グループ内の他国の法人が“肩代わり”して納税するルールです。


(3)国内最低税率(QDMTT)

各国が自国の企業について、
「国内で追加課税する」仕組みです。
日本も2024年度に導入済みで、2026年度以降は本格的な適用が進みます。


3 日本企業への影響:財務と実務の双方に及ぶ

最低税率15%の導入は、日本企業に次のような影響を与えます。


(1)海外子会社の税負担が増える可能性

税率が低い国(地域)に子会社を置く企業は、
・追加納税の必要性
・グループ全体の税負担の上昇
が生じる場合があります。


(2)税務データの大量・精密な収集が必要

Pillar2は、従来の法人税とは異なる計算ルールを採用しています。
そのため、
・会計データ
・税務データ
・グループ子会社データ
の収集・統合が不可欠になります。

データが不十分だと、適切な計算ができず税務リスクが高まります。


(3)税務部門の負荷増大

最低税率計算は非常に複雑で、
・財務部門
・税務部門
・海外子会社の管理部門
の連携が必要です。

特に中堅企業ではリソース不足が課題になります。


(4)海外子会社の持株構造・再編の検討

税率の低い地域への投資のメリットが薄れ、
・再編
・統合
・撤退
など、グループ全体の拠点戦略の見直しが必要になる場合があります。


(5)財務戦略への影響

追加課税を見越し、
・投資回収計画
・内部留保の管理
・キャッシュフロー計画
などを再検討する必要があります。


4 日本の法人税制はどう変わるのか:2026年度改正での調整

最低税率15%は国際合意であり、日本の税制もその枠組みと整合性を保つ必要があります。


(1)QDMTT(国内最低税率)の制度調整

日本は国内最低税率を導入済みですが、
・適用範囲
・計算方法
・追加課税の仕組み
など細部の調整が2026年度改正で行われる可能性があります。


(2)税務申告システムの整備

国税庁側でも、Pillar2の申告に対応した
・電子データ提出
・自動計算システム
などが段階的に整備されると見られます。


(3)政策減税との整合性

Pillar2の導入により、
・研究開発税制
・中小企業投資税制
などの政策減税が“実効税率”にどう影響するか、制度面での見直しが必要になります。


5 企業が今から備えるべき三つの実務ポイント

最低税率15%は、複雑な制度であるものの、準備は早いほど負荷が軽減されます。


(1)海外子会社の税率と利益状況の把握

まずは、
・各国の税率
・海外子会社の実効税率
・追加課税が生じる可能性
を把握するところから始める必要があります。


(2)グループ全体のデータ基盤の整備

最低税率計算には、
・財務情報
・税務情報
・雇用データ
・資産情報
など、大量のデータが必要です。

ERPや連結会計システムの再整備も検討すべき領域です。


(3)海外子会社とのコミュニケーション強化

最低税率の運用は、海外子会社の協力が不可欠です。
・必要データの共有
・納税実務の整理
・責任範囲の明確化
など、ガバナンスの再構築が求められます。


結論

グローバルミニマム税制(最低税率15%)は、単なる国際課税の変更ではなく、「企業のグローバル経営そのもの」を変える制度です。
2026年度改正では、制度の適用範囲と運用体制が整備され、企業はより具体的な実務対応を求められます。

重要なのは、
・追加課税を最小限に抑える体制整備
・データ統合と税務ガバナンスの強化
・海外拠点戦略の見直し
といった中長期的な視点を持つことです。

次回(第8回)は 電子帳簿保存法・AI会計・DXと法人税務の未来 を取り上げます。


参考

日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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