法人税改正2026を読み解く 第6回 賃上げ促進税制の再構築:効果と持続性をどう高めるのか

税理士
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賃上げ促進税制は、企業が従業員の給与を引き上げた際に法人税額を控除する制度として導入され、近年の賃金上昇を後押しする政策の柱のひとつでした。しかし、制度の複雑さや業種間の格差、持続性に関する課題が多く指摘されてきました。

2026年度の法人税改正では、日本版DOGE(政府効率化省)による政策減税の総点検も踏まえ、賃上げ促進税制は「抜本的な再設計」の対象となる見通しです。単に賃金を上げた企業を優遇する仕組みから、
・人的資本投資
・生産性向上
・教育訓練
といった幅広い取り組みを支える税制へと発展する可能性があります。

本稿では、
・現行の賃上げ促進税制の課題
・2026年度改正の方向性
・中小企業への影響
・人的資本投資との新しい関係
・企業が備えるべき実務的ポイント
を整理し、「持続的な賃上げを支える税制の姿」を考えます。

1 賃上げ促進税制の現状と課題

賃上げ促進税制は、企業が給与支給総額を一定以上引き上げた場合に税額控除を認める仕組みですが、様々な課題が存在します。


(1)制度が複雑で使いづらい

控除率や適用要件が複数あり、
・継続雇用者の給与増加率
・教育訓練費の増加額
・中小企業か大企業かの区分
などを判断する必要があります。

中小企業では専門人材が不足しており、制度利用が広がらない一因となっています。


(2)業種間で賃上げの余力が異なる

製造業とサービス業、IT業と地方の中小企業などでは、賃金水準も利益率も大きく異なるため、同じ要件を適用することに無理があります。


(3)賃上げが“税制依存”になりかねない

税制が賃上げ行動を支えるのは一定の効果がありますが、
・業績や生産性の裏付けが不十分
・持続性に欠ける
という課題が指摘されます。

税制がきっかけにはなり得ても、賃上げの維持には企業自身の成長が不可欠です。


(4)教育訓練・人的投資との連動が弱い

人材育成の取り組みと賃上げ税制が連動しておらず、
・賃上げだけが形式的に評価される
・人的投資の効果が可視化されない
といった問題も存在します。


2 2026年度改正の方向性:賃上げ税制は“人的資本投資税制”へ

2026年度改正では、賃上げ促進税制は大きく方向転換する可能性が高く、主な見直しポイントは次のとおりです。


(1)賃上げ+人的投資を総合評価

従来は「給与総額の増加率」に焦点が当てられていましたが、今後は、
・人的資本への投資
・教育訓練費
・デジタルスキル習得
など、企業が行う人への投資全体を評価する方向に移行すると見られます。


(2)制度の簡素化

現行の賃上げ税制は要件が複雑で、最も改善が求められている部分です。
2026年度改正では、
・要件の単純化
・判定基準の明確化
・計算方法の合理化
が進む可能性があります。

特に中小企業が利用しやすい制度設計が優先されます。


(3)生産性向上と賃上げの連動

政府は「賃上げには生産性向上が不可欠」との立場を明確にしており、今後は、
・DX投資
・自動化
・業務改善
といった設備投資との連携が強化される見通しです。

賃上げ税制が“投資税制の一部”として再設計される可能性があります。


(4)中小企業への重点配慮

制度の簡素化だけでなく、
・控除率の上乗せ
・手続きの電子化・省力化
・税務署による支援強化
など、中小企業が使いやすい制度設計が求められています。


3 企業にとって賃上げ税制が持つ意味

賃上げ税制は単なる税負担の減少ではなく、企業経営そのものに影響する制度です。


(1)賃上げの財源としての役割

短期的には、賃上げに伴う人件費増を税額控除で一定程度カバーできます。キャッシュフローに余裕ができるため、成長投資を行いやすくなります。


(2)人材獲得競争での優位性

人手不足が深刻化する中、賃上げができる企業は採用力が高まります。
税制はその後押しとして機能し得ます。


(3)企業文化・人的投資の転換

賃上げ税制は「人に投資する企業ほど優遇される」制度であり、
・従業員のスキル向上
・働きがいの向上
・長期的な定着
などにつながります。

税制をきっかけに組織文化が変わる可能性もあります。


4 賃上げ税制の新しい姿:持続性をどう確保するか

制度が再構築される中で、持続的な賃上げを実現するためには、企業側の取り組みが不可欠です。


(1)生産性向上が賃上げの前提

賃上げは“結果”であり、
・業務効率化
・技術導入
・人材スキルアップ
といった取り組みがなければ継続できません。


(2)DX・AIの活用

業務の標準化や自動化により、
・付加価値を高める
・単純作業を削減する
ことができれば賃上げ余力が生まれます。


(3)人的資本経営の強化

賃上げは“給与を上げること”ではなく
“人に投資することの結果”
として位置付けることが重要です。


5 企業が今から備えるべき三つの実務ポイント

賃上げ促進税制の再構築を見据えて、企業が準備すべきことを整理します。


(1)人件費データの整理

・給与総額
・教育研修費
・部門別人件費
・前年対比
など、賃上げ計画と税制適用をセットで管理できるデータ基盤が必要です。


(2)人材育成計画の策定

税制が「人的投資」を評価する方向に動くため、
・スキル習得計画
・教育プログラム
・キャリア設計
の整備が重要です。


(3)賃上げと設備投資の連動計画

「賃上げだけ」では持続性がなく、
・DX投資
・自動化
・業務改善
との組み合わせが本質的な賃上げにつながります。


結論

2026年度の法人税改正に向けて、賃上げ促進税制は「人的資本投資を支える税制」へと大きく方向転換する可能性があります。制度の簡素化や中小企業への配慮が進む一方で、企業に求められるのは、
・生産性向上
・人材育成
・長期的な賃上げ計画
を組み合わせた総合的な戦略です。

税制を活用しながら、人への投資が企業成長の中心となる経営モデルへ移行することが求められています。

次回(第7回)は 国際課税の大転換:グローバルミニマム税制(最低税率15%)の定着 を取り上げます。


参考

日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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