法人税改正2026を読み解く 第5回 中小企業向け税制の見直し:優遇から“生産性投資”重視へ

税理士
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2026年度の法人税改正では、中小企業向け税制の再整理が大きな焦点になります。長年にわたり「中小企業の負担軽減」として多くの特例税制や優遇措置が積み上がってきましたが、その結果、制度は複雑化し、政策目的が不明確なものも見られるようになりました。

さらに日本版DOGE(政府効率化省)による政策減税の総点検が始まり、効果が乏しい税制は縮小・廃止の方向で議論が進みつつあります。中小企業向け税制もその例外ではなく、「本当に必要な支援に絞り込む」方向に舵が切られる見通しです。

今回の改正では、単なる優遇税制の維持ではなく、
・設備投資
・デジタル化
・生産性向上
・人的資本投資
など、中小企業の成長と競争力強化を目的とした“生産性投資重視”の思想が中心となる可能性があります。

本稿では、
・現行の中小企業税制の課題
・2026年度改正の方向性
・投資促進税制の再整理
・賃上げ促進税制との関係
・中小企業が備えるべき実務ポイント
をまとめます。

1 中小企業向け税制の現状と課題

日本の中小企業向け税制は、減税メニューの多さと複雑さが特徴です。政策目的ごとに制度が積み重ねられた結果、全体としての体系性が薄れています。


(1)制度が多すぎてわかりにくい

中小企業投資促進税制、特別償却、所得拡大税制、設備導入支援、DX税制など、名称も要件も異なる制度が乱立しています。
・判断に時間がかかる
・要件の理解が難しい
・誤適用リスクが高い
という実務上の問題が多数生じています。


(2)本当に必要な企業に届いていない

人手不足や原材料高で厳しい企業ほど、税務リソースが不足しており、制度を活用できていないケースが多くあります。


(3)税制が「維持」ではなく「成長」に結びついていない

税制を使うことが目的化してしまい、
・投資に結びつかない
・生産性向上に直結しない
といった問題もあります。

こうした課題を踏まえ、2026年度改正は中小企業税制の「選択と集中」が大きなテーマになります。


2 2026年度改正の方向性:生産性投資への誘導

政府は、中小企業向け税制を「生産性向上に資する制度」に絞り込む方針を示しつつあります。ここでは主な方向性を整理します。


(1)投資促進税制の統合・簡素化

現在の制度は、
・税額控除
・特別償却
・控除率や限度額の違い
など、使い分けが複雑です。

2026年度改正では、
・設備投資支援を一つの制度に統合
・簡素でわかりやすい要件
・申請負担の軽減
など、「使いやすさ」を重視した整理が進むと見られます。


(2)DX・自動化投資への重点化

中小企業の生産性向上において、
・クラウド会計
・生成AIの業務利用
・製造業の自動化
などは大きな効果を持つとされています。

今後の税制では、
「DX投資を行う企業を集中的に支援する」
という方向性が有力です。


(3)人的資本投資・賃上げとの連動

賃上げ促進税制の見直しと連動し、
・教育研修費の優遇
・リスキリング支援
・賃上げ実施企業の税額控除拡充
といった人的投資を促す制度が検討されています。


(4)スタートアップ支援との接続

中小企業とスタートアップの境界は曖昧であり、次の論点が重要になります。
・研究開発の初期フェーズ支援
・税制×補助金の一体的支援
・赤字企業でも使える仕組み

中小企業税制は、スタートアップ支援と重なる部分が増える見通しです。


3 投資促進税制の再整理:どのように変わるのか

中小企業税制の中心である「投資促進税制」は、特に大幅な見直しが予想されています。


(1)特別償却から税額控除へ

特別償却は減価償却を前倒しする仕組みで、効果がわかりにくい面があります。
これに対し税額控除は“税金が直接減る”ため、企業にとってメリットが明確です。

今後は、
・特別償却より税額控除を中心に設計
・控除率は投資効果に応じて変動
という方向性が検討されています。


(2)投資分野の絞り込み

対象は以下のような生産性向上分野に重点化される可能性があります。

・自動化設備
・省エネ設備
・AI活用
・クラウド導入
・データ連携基盤
・リモートワーク環境

特にAI活用による業務効率化は国全体の課題であり、政策的な後押しが期待されます。


(3)要件の簡素化

現行制度では、
・「中小企業等経営強化法」の認定
・工業会の生産性証明
など、手続きが複雑な部分が多いのが実情です。

改正では、
・自己申告ベースの簡素な要件
・電子申請の徹底
など行政負担の軽減が進むと考えられます。


4 賃上げ促進税制との関係:企業のインセンティブはどうなるか

賃上げ促進税制の見直しにより、中小企業税制は人的投資との連動が強まります。


(1)“設備投資+賃上げ”のセットで優遇

設備投資と賃上げを同時に行う企業に対して、優遇幅が拡大する制度が検討されています。生産性向上と所得向上を同時に促す政策設計です。


(2)教育研修費への支援

DX時代には、設備投資と併せて人的投資が不可欠であるため、
・教育研修費
・デジタルスキル向上
などを支援対象にする案も議論されています。


5 企業が今から備えるべき三つの実務ポイント

中小企業向け税制が再整理されることを踏まえ、企業は以下の視点で準備する必要があります。


(1)現在利用可能な税制の棚卸し

まずは、
・利用中の投資減税
・賃上げ税制
・研究開発税制
などを整理し、廃止・統合の影響を確認することが重要です。


(2)生産性投資の計画づくり

政策は「なんでも支援する」方向から、
「生産性を高める投資を支援する」
方向に移行しています。

設備投資だけでなく、
・業務のデジタル化
・AIの活用
・人材育成
を含めた総合的な投資計画が求められます。


(3)税務データ・経営データの整備

政策減税の評価はデータが前提となるため、
・生産性(売上高/従業員数)
・投資効果
・賃上げ実績
などのデータを可視化しておく必要があります。

国税庁のAI調査対応としても重要なポイントです。


結論

2026年度の法人税改正では、中小企業向け税制が「優遇を広く配る制度」から「生産性向上を促す制度」へと大きく転換しようとしています。
投資促進税制の統合・簡素化、DX投資への重点化、人的資本投資の評価強化など、中小企業の成長に直結する制度づくりが進むと見込まれます。

企業に求められるのは、制度変更を受け身で待つのではなく、
・自社の投資計画を整理し、
・必要なデータを整備し、
・税務と経営戦略を結びつけること
です。

次回(第6回)は 賃上げ促進税制の再構築:効果と持続性の検証 を取り上げます。


参考

日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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