2026年度の法人税改正では、企業にとって欠かせない「政策減税」の行方が大きな注目点になります。特に、2024年から本格稼働した日本版DOGE(政府効率化省)が「政策効果の見える化」「非効率な支出の整理」を掲げたことで、租税特別措置(特例税制)は本格的な総点検の対象になりつつあります。
研究開発税制、中小企業投資促進税制、一定の地域支援税制など、多くの法人向け減税は政策目的に基づいて設計されていますが、それぞれ効果検証が不十分であったり、重複していたり、制度が複雑化して利用しにくかったりする課題が指摘されてきました。
本稿では、
・そもそも政策減税は何のためにあるのか
・日本版DOGEが何を変えようとしているのか
・どの政策減税が見直し対象になり得るのか
・企業はどのように備えるべきか
という観点から、2026年度改正の重要テーマを整理します。
1 政策減税(租税特別措置)とは何か
まず、政策減税とは、企業活動を特定の政策目的に誘導するために設けられた“追加の控除”や“優遇課税”のことを指します。
代表例として、
・研究開発税制
・中小企業投資促進税制
・所得拡大税制(賃上げ促進)
・地域経済活性化税制
・DX投資促進税制(時限的)
などがあります。
これらは「企業が特定の行動を取ること」に対してインセンティブを与える目的で設計されており、国の産業政策・地域政策・雇用政策と密接に結びついています。
しかし、今回の税制改正では、この政策減税に対して新しい評価基準が導入されます。
2 日本版DOGEとは何か:政策減税の“透明化”を進める仕組み
日本版DOGE(Digital Operations for Government Efficiency/政府効率化省)は、政策の実施効果を多角的に検証し、
・不要な支出の削減
・非効率な制度の整理
・効果の高い政策への資源集中
を目的に創設された機関です。
政策減税は一般会計からは見えづらく、
・効果の測定が難しい
・制度が増え続ける
・実質的な支出と同じにもかかわらず“予算として見えない”
という課題がありました。
日本版DOGEは、これらを「予算」と同様に扱い、
・KPI(成果指標)の設定
・利用者数
・税収減の規模
・政策目的への貢献度
などを基に個別税制を評価していきます。
国は今後、
「効果の低い政策減税は縮小・廃止へ」
「目的に沿った制度は重点強化へ」
という方向性を明確に打ち出しています。
2026年度改正は、まさにその最初の大きな節目となります。
3 見直し対象となる可能性が高い政策減税
現時点で議論されている中で、特に次の領域は見直しが進む可能性があります。
(1)研究開発税制:重点領域への選択と集中
研究開発税制は企業の技術競争力に直結しますが、
・制度が複雑
・控除率が低下傾向
・高リスク研究を支えきれない
という課題が指摘されています。
DOGEの評価によって、
・AI・半導体・脱炭素など重点領域に支援を集中
・成果が見えにくい研究への控除は縮小
・スタートアップ優遇の強化
など、「質の高いR&D」に絞り込んだ改革が行われる可能性があります。
(2)中小企業向け投資減税:統合・再設計の可能性
中小企業向け税制は数が多く、似た目的の制度が重複する点が課題でした。
整理の方向性としては、
・投資促進税制とDX税制などの統合
・人的投資との連動
・効果の低い減税の廃止
などが検討されると見られます。
中小企業の“使いやすさ”を重視した再設計が期待されます。
(3)賃上げ促進税制:複雑性と効果の両立が課題
賃上げ促進税制は、
・制度が複雑
・業種差が大きい
・大企業と中小企業で効果が異なる
といった課題があり、DOGEによる評価が加速すると見られています。
今後は、
・より簡素な設計へ
・賃上げだけでなく人的投資全体を評価
・中小企業向け重点化
といった方向性が有力です。
(4)地域支援税制:効果検証が最重要テーマ
地方創生税制や産業集積促進税制などは、地域活性化の柱として導入されましたが、
・KPIが曖昧
・利用者が偏在している
・経済効果が見えにくい
という理由で再検証の対象になっています。
今後は、
・対象地域の絞り込み
・成果の可視化
・自治体との連携強化
が重要になります。
4 政策減税の整理で企業に起きる変化
政策減税の“整理”は、単に優遇制度が減るという話ではありません。
企業経営の方向性に影響する以下の変化をもたらします。
(1)税務戦略から投資戦略へ「軸」の移動
これまでは「減税があるから投資する」という発想が一定程度ありました。
しかし今後は、
「成長戦略として必要な投資を、税制がどう支援するか」
という流れに変わっていきます。
税制は“後押し”であり“主目的”にはならない方向へ移行します。
(2)投資判断の透明性が求められる
政策減税の縮小・選別により、
・財務指標
・投資効果
・人的投資の成果
など企業内部の判断がこれまで以上に重視されます。
税制に依存した投資は成立しにくくなるため、長期戦略の整合性が問われます。
(3)スタートアップ・新産業への資源集中
研究開発税制の再設計により、
・AI技術
・脱炭素技術
・半導体
といった分野の支援が厚くなる可能性があります。
産業構造の転換に合わせた税制設計へシフトしていくことは、既存企業にも大きな示唆を与えます。
5 企業が今から準備すべき三つの視点
政策減税の総点検は、企業に「事前準備」の必要性を強く示しています。
(1)利用中の税制の棚卸し
まずは、自社がどの政策減税を
・過去に利用したか
・現在利用しているか
・将来利用を予定しているか
を整理することが重要です。
制度廃止や要件変更の影響を受ける可能性があります。
(2)税務データと投資効果の可視化
DOGEの評価観点では「成果」が重視されます。
企業側も、
・投資による効果
・生産性
・雇用・賃上げ
を客観的に示せるデータ整備が必要です。
(3)税務部門と経営企画の連携
政策税制が“選別”される時代には、
・税務部門:制度理解・影響分析
・経営企画:投資戦略
・人事部:人的投資や賃上げ戦略
の三者連携が不可欠になります。
税務を財務・経営戦略の一部として扱う必要があります。
結論
2026年度の法人税改正における最重要テーマの一つが、政策減税(租税特別措置)の総点検です。
日本版DOGEの導入によって、従来のように“制度が積み上がり続ける”状況から、“成果に基づいて精査される”時代へ大きく舵が切られました。
政策減税は企業の重要な意思決定に影響を与える制度でしたが、今後は
・効果の高い制度が残り、
・使い勝手の悪い制度は整理され、
・新産業・人的投資・技術革新へ重点が移る
という方向性が強まると考えられます。
企業にとっては、制度そのものに依存するよりも、
「税制を活かしつつ、成長戦略に基づいた投資を実行する」
という姿勢が求められる時期に入りました。
次回(第4回)は 研究開発税制の再設計:イノベーション競争に対応する新しい税制の姿 を取り上げます。
参考
日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
