法人税改正2026を読み解く 第2回 防衛増税は法人税にどう影響するのか:付加税方式の具体像と企業の備え

税理士
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2026年度の法人税改正を考えるうえで避けて通れないテーマが、防衛力強化のための「防衛増税」です。すでに政府は、法人税に付加税を上乗せする仕組みを中心に財源を確保する方針を示しており、2026年度改正はその最終的な制度設計が固まる局面になります。
今回の改正は、単なる税率調整ではなく、企業の中長期的な財務計画や投資戦略に影響を及ぼす制度変更となります。

本稿では、
・なぜ防衛増税が必要なのか
・法人税の付加税方式とは何か
・どの程度の負担増が見込まれるのか
・中小企業への影響はどう考えられるのか
・企業が今から備えるべきことは何か
という点を、2026年度改正の流れとともに整理します。

1 なぜ防衛財源が必要なのか:背景にある三つの要因

防衛増税論が本格化した背景には、次の三つの大きな政策要因があります。


(1)防衛費の中期的増額計画

政府は2027年度までに国内総生産(GDP)比2%を目指す方針を掲げており、防衛費は今後数年間で段階的に増加する見通しです。

増額分の財源として想定されているのは
・法人税の付加税
・たばこ税の税率引き上げ
・一部時限措置(特別税)の見直し
ですが、柱となるのは法人税です。


(2)安定的な恒久財源の確保

一時的な財源ではなく、継続して得られる税収が必要なため、景気動向の影響が小さく安定性の高い税目が求められています。法人税は税基盤が大きく、長期安定税源としての役割が期待されています。


(3)企業の社会的役割の再定義

経済安全保障の観点から、民間企業も国の安全保障環境の変化を共有し、財政を支える必要があるという政策的背景もあります。
こうした文脈から法人税が防衛財源の中心に位置付けられました。


2 法人税の付加税方式とは何か:仕組みをわかりやすく整理

政府が検討している方式は「法人税額の一定割合を上乗せする付加税方式」です。

例として、法人税額に対し「4%の付加税」を課すという案が示されたことがあります。


■ 付加税の仕組み(イメージ)

法人税額 × 一定割合(付加税率)
= 防衛財源としての追加負担額

※税率はまだ最終決定していません。


■ 制度の特徴

  • 基礎法人税率を変えず、付加税という“別枠”で調整
  • 一定の透明性があり、税収確保の見通しが立てやすい
  • 経済状況に応じて付加税率を柔軟に調整可能

法人税率そのものは国際比較に直結するため、基礎税率を維持しつつ財源だけ確保する工夫と言えます。


3 どの程度の負担が増えるのか:影響の方向性

税率が最終決定していないため推計には幅がありますが、仮に4%の付加税が導入された場合、
・法人税負担は数%程度増加
・大企業ほど負担額が大きくなる
・利益変動の激しい業種では年度ごとの影響が大きい
といった傾向が予想されます。

また、付加税方式は「税額ベース」で課税するため、利益を生まない企業(赤字企業)は負担がありません。


4 中小企業はどうなるのか:負担配慮の可能性

歴史的に、日本の税制改正では中小企業への配慮措置がセットで検討されてきました。

考えられる対応:

  • 中小企業に対する付加税の軽減
  • 所得基準による段階的な付加税率
  • 防衛増税と同時に中小企業投資税制を拡充する
  • 賃上げ促進税制や人的投資支援の強化

特に中小企業は人件費・原材料費の上昇など複合的な負担が重なっているため、増税単体ではなく“パッケージとしての支援策”が重要になると見られます。


5 企業財務への影響:短期と中期で分けて整理

防衛増税は単なる税負担増ではなく、企業の財務・経営計画に中長期の影響が生じます。


(1)短期的な影響

・当期税負担の増加
・キャッシュフローの圧迫
・予定納税額の増加

特に付加税方式は「税額に直接上乗せされる」ため、利益計画と税金計画の調整が必要になります。


(2)中長期的な影響

・内部留保の水準見直し
・設備投資や研究開発投資の優先順位の再整理
・賃上げ余力への影響
・配当政策への波及

また、税率上昇が避けられない環境では「節税より企業の成長戦略そのものが問われる」局面に移行していきます。


6 企業が備えるべき五つのポイント

2026年度改正への備えとして、企業が今から取り組めるアクションを五つに整理します。


(1)税負担のシミュレーション

仮の付加税率でも構わないため、
・売上変動
・利益計画
・設備投資
・賃上げ計画
を踏まえた影響額の試算が重要です。


(2)研究開発・DX投資の優先順位付け

防衛増税と同時に政策減税の整理が進むため、
・どの投資が税制メリットを得られるか
・期限付き税制はどの年度まで使えるか
を見極める必要があります。


(3)グループ経営の見直し

付加税方式は法人税額ベースで課税されるため、
・グループ会社の利益配分
・連結納税・グループ通算制度
の効果検証が求められます。


(4)キャッシュフロー管理の強化

法人税負担の上昇は資金繰りへの影響が大きくなるため、
・資金調達計画
・投資回収期間
・内部留保の活用
を再点検するタイミングです。


(5)税務データの整備(AI調査への対策)

国税庁はAI分析で重点調査法人を抽出しており、
・電子帳簿保存法への完全対応
・会計データの整合性
・証憑の電子保管
は必須要件になります。


結論

防衛増税によって法人税の付加税が導入されることはほぼ既定路線ですが、その制度設計や税率は2026年度改正で最終的に固まります。
付加税方式は、税率そのものを変えずに財源を確保する合理的な手法である一方で、企業の税負担は確実に増える方向にあります。

今企業が取り組むべきことは、増税を単なるコスト増と捉えるのではなく、
・財務戦略の再定義
・人的投資や研究開発の重点化
・グループ経営の見直し
・デジタル化による税務高度化への対応
といった経営全体の見直しにつなげることです。

次回(第3回)は、日本版DOGEによる政策減税(租税特別措置)の総点検について取り上げます。


参考

日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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