法人税の簡易な接触や調査の過程で、
「この点については修正申告をお願いします」
と税務署から勧められることがあります。
この言葉を聞くと、多くの法人は
「従わなければいけないのではないか」
「争うと調査が長引くのではないか」
と不安になります。
しかし、修正申告は義務ではありません。
重要なのは、勧められた瞬間に判断しないことです。
修正申告とは何か
修正申告は、納税者が自ら申告内容の誤りを認め、申告をやり直す手続です。
国税庁が一方的に強制するものではなく、あくまで納税者の意思に基づく行為です。
つまり、
- 勧められた=必ず応じる
ではありません。
ただし、応じるかどうかで、その後の展開は大きく変わります。
税務署が修正申告を勧める理由
税務署が修正申告を勧める背景には、次の事情があります。
- 調査結果として否認の見込みが高い
- 争点として整理しやすい
- 納税者が自主的に是正した形を取りたい
修正申告は、税務署側にとっても
- 事務処理が早い
- 争いを避けられる
というメリットがあります。
そのため、「勧められた=完全に黒」と即断する必要はありません。
その場で「分かりました」と言ってはいけない理由
調査の場で最も避けるべきなのが、
「分かりました。修正します」
と即答することです。
理由は3つあります。
1つ目は、他の年度・他の論点に影響が及ぶ可能性です。
一度誤りを認めると、過年度や別の取引も同様に否認される可能性があります。
2つ目は、重加算税リスクの判断が含まれていないことです。
安易な修正が、不正認定につながるケースもあります。
3つ目は、交渉の余地を自ら放棄することになる点です。
修正申告を検討すべきケース
実務上、修正申告を前向きに検討すべきなのは、次のような場合です。
- 事実関係に争いがない
- 証拠が不足しており説明が難しい
- 否認された場合の影響が限定的
- 簡易な接触の段階で指摘されている
この場合、早期に修正申告を行うことで、
- 加算税の軽減
- 実地調査への発展回避
といった効果が期待できます。
慎重に判断すべきケース
一方、次のような場合は慎重な判断が必要です。
- 事実認定に争いがある
- 法令解釈の問題が中心
- 金額が大きく、影響範囲が広い
- 同様の処理を継続している
このようなケースでは、
「修正するか・しないか」
だけでなく、
どこまで認め、どこから争うか
という視点が重要になります。
修正申告をしないという選択肢
修正申告を行わない場合、
税務署は
- 更正処分
- 不服申立て
という次のステージに進む可能性があります。
これは決して「対立」ではありません。
制度として用意されている正当な手続です。
重要なのは、
- 感情で拒否しない
- 根拠なく拒否しない
という点です。
実務で意識すべき判断軸
修正申告を判断する際は、次の軸で整理すると冷静に判断できます。
- 勝てるかどうか
- 費用と時間はどれくらいか
- 他の論点への波及はあるか
- 将来の処理をどう変えるか
「正しいかどうか」だけでなく、
経営判断として合理的かどうか
という視点が不可欠です。
結論
法人税で修正申告を勧められたとき、
最も重要なのは、
その場で決めないことです。
修正申告は、
- 逃げでも
- 敗北宣言でも
ありません。
一方で、
安易な修正は、
不要なリスクを広げることもあります。
AI時代の税務調査では、
「早く判断する」よりも、
「正しく判断する」ことが求められています。
修正申告は、
納税者が選ぶ手続です。
だからこそ、冷静に、戦略的に判断する必要があります。
参考
・税のしるべ「6事務年度法人税等の調査事績、追徴税額が6.6%増の3407億円で過去最高に」(2025年12月8日)
・国税庁「令和6事務年度における法人税等の調査事績」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
