法人への追徴税が過去最多に増加 AIが税務調査の現場を変えはじめた

税理士
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国税庁が公表した2024事務年度(2024年7月〜2025年6月)の法人に対する追徴税額が、10年度以降で過去最多となる3811億円に達しました。追徴税の増加は3年連続で、法人税・消費税・源泉所得税のいずれも高い水準が続いています。

背景には、従来型の調査手法に加えて、AIを活用した調査対象法人の抽出と不正パターン分析が本格化してきたことがあります。
AIが税務調査の効率と精度を高める時代に入り、企業や経営者は従来以上に「透明性のある経理」と「説明可能性の高い会計処理」が求められています。

本稿では、追徴税額が増えた理由、AIの活用状況、中小企業に求められる実務上の対応について解説します。

追徴税額は過去最多の3811億円

国税庁発表によると、2024事務年度の追徴税額は以下の通りです。

  • 法人税:2187億円
  • 消費税:1220億円
  • 源泉所得税:404億円
  • 合計:3811億円(過去最多)

調査1件あたりの追徴税額は697万円で、これも過去2番目の高水準です。

追徴税額の増加は「不正が増えた」ことだけを意味するわけではありません。むしろ、調査対象選定の精度向上が大きく影響しています。

AIが調査対象法人の選定をサポート

2022年度から導入されたAIによるリスク分析は、2024年度にはさらに精度が高まりました。

  • 全国約339万法人のうち
  • AI分析で約49万法人を抽出
  • 税務職員の目視選定を経て
  • 最終的に約5万3000件を調査

AIは売上・経費・原価の変動パターンや、法人ごとの経営指標を総合分析し、不自然な経理処理がある可能性の高い法人を優先的にリストアップします。

これまで膨大な資料を職員が手作業で分析していた部分を補完し、「調査効果の高い案件への集中」が可能になりました。

新システムで「不正パターン」を提示

24年度からはさらに一歩進み、AIが推計した「想定される不正パターン」を職員に提示する仕組みが導入されました。

例として挙げられたのは以下のようなケースです。

  • AIが“原価の不正の可能性”を指摘した法人を抽出
  • 決算書・仕訳・外注費の流れを職員が精査
  • 実態のない外注費(架空外注)を把握
  • 法人税+消費税で約3億6千万円の追徴税に至った

従来のような「書類の多さ」や「表面的な数字」ではなく、
取引の実質・経済合理性を重視して細部まで分析するスタイルが明確になっています。

中小企業ほど「AI調査」の影響は大きい

AI対象の中心は、資本金1億円未満の中小法人です。

理由は以下の通りです。

  • 法人数が圧倒的に多い
  • 経理体制が弱い企業もあり、誤りが生じやすい
  • 調査効率を高めるためのAI活用が効果的

中小企業の場合、
「故意でないが、処理の誤りや証拠不足で否認される」
というケースも増える可能性があります。

AIはデータの異常値や特異点を検知するため、
数字の揺れや、説明のつかない原価・経費の変動は即座に“抽出対象”となり得ます。

経営者が取り組むべき実務対応

AI活用によって税務調査がより「定量的・分析的」に変化した今、企業が行うべき対策は明確です。

① 取引の「実在性」「対価性」の証拠をそろえる

架空外注や水増し経費が否認されるのは当然ですが、
実際には正当な取引でも、以下が不足していると疑義が生じます。

  • 契約書(または注文書・見積書・請書)
  • 仕様書・成果物
  • 作業日報・業務実施のログ
  • 振込記録
  • 相手方の実在性が確認できる資料

AIは“証跡の薄い取引”を過敏に検知しやすいため、
客観的な証拠を日常的に整備することが重要です。

② 経費・原価の「説明可能性」を高める

AIが特に注視するのは、

  • 原価率の急変
  • 売上に比べて異常に高い外注費
  • 仕入先の変動パターン
  • 同業他社比で不自然な値動き

こうした点について、経営者が“説明可能”であることが重要です。

③ タックスプランニングを「透明性ベース」へ

節税のためのスキームが「実態に乏しい」と判断される時代です。
透明性・実質・記録を重視した税務対応が求められます。

④ 電子帳簿保存法・インボイス制度の整備

紙とデータを混在させている企業は、一貫性がないためAIに異常値と判定される可能性が高まります。
早期に電子化し、証跡管理を標準化しておくことが必須です。


結論

追徴税額が過去最多になった背景には、単なる不正増加だけでなく、AIによる調査効率と精度の向上があります。
法人・中小企業にとっては、数字の整合性だけでなく、証拠・説明・透明性が今まで以上に重要になっています。

特に中小企業は、正しい取引でも「証拠の薄さ」で否認されるリスクが増えるため、
日々の経理処理と証跡の管理レベルを一段引き上げる必要があります。

AIが税務調査を変え始めた今こそ、
「正確さ」と「透明性」を備えた経理体制こそが最大の防御となり、
ひとり税理士としても顧問先に強く伝えるべきメッセージになります。


参考

・国税庁 2024事務年度 法人等の調査等の状況
・日本経済新聞「法人の追徴税、最多3811億円」
・税務行政におけるAI活用に関する国税庁資料(過年度)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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