東京一極集中は、長年にわたり日本の構造問題として議論されてきました。人口、企業、本社機能、金融、情報、文化――あらゆるものが東京に集積することで、日本経済全体を牽引してきた一方、地方との格差や財政のゆがみも拡大してきました。
2025年から2026年にかけて、この東京一極集中を巡る状況は新たな局面に入っています。税制改正大綱に盛り込まれた「税収偏在是正」の強化、副首都構想の再浮上、外国人政策を巡る議論の高まりなど、東京都を取り巻く環境は大きく変化しています。
本稿では、東京一極集中を巡る最新の動きを整理しつつ、税財政と都市政策の観点から、その意味と今後の論点を考えてみたいと思います。
税収偏在是正が強まる背景
法人課税と固定資産税を巡る再分配
2026年度税制改正大綱では、東京都から地方へ税収を再分配する仕組みが一段と強化されました。法人事業税などの「国税化」の拡充に加え、東京23区の固定資産税の一部を全国の自治体に配分する新たな仕組みも示されています。
背景にあるのは、東京に税源が過度に集中しているという地方側の強い問題意識です。とりわけ、ネット通販企業や金融機関が東京に集中することで生じる法人課税や利子課税が、地方経済の実態と乖離しているとの指摘が強まりました。
東京都側から見れば、経済活動の集積によって生まれた税収を一方的に再配分される構図は「防戦一方」と映ります。しかし、地方からの巻き返しが難しくなっているのも事実です。
子育て政策が呼び起こした反発
偏在是正論を加速させた象徴的な要因が、東京都の子育て支援策です。いわゆる「チルドレンファースト」を掲げ、給付金、保育料無償化、医療費助成などを拡充した結果、関連予算は約2兆円規模に達しました。
この手厚い支援は、都内の出生数増加という一定の成果を生みましたが、同時に周辺県や地方自治体からの反発も招きました。「東京だけが潤っている」という印象が、税財源の再配分を求める声を後押しした側面は否定できません。
東京都にとっては、少子化対策という国全体の課題に取り組んだ結果が、逆に税制面での締め付けを招くというジレンマを抱える形になっています。
外国人政策と都市成長のジレンマ
東京の人口増を支える外国人
東京都の人口増加の大半は、すでに外国人によって支えられています。在留外国人数はこの数年で急増し、全国の約2割が東京に集中しています。都市の成長や労働力確保の観点から、外国人の存在は欠かせません。
一方で、国政レベルでは外国人政策を巡る議論が先鋭化しています。帰化要件や在留管理の厳格化が論点となり、都市の現実と国の政策との間に温度差が生じています。
共生をどう制度に落とし込むか
東京都は「秩序ある共生社会」を掲げ、外国人との共存を制度面で整えようとしています。しかし、人口減少社会において外国人をどう位置づけるのかという根本的な議論は、いまだ整理されていません。
税財政、社会保障、教育、医療といった分野において、外国人を含めた都市設計をどう描くのか。この点は、東京だけでなく日本全体が直面する課題と言えます。
副首都構想は何を意味するのか
防災と機能分散の論理
副首都構想が再び注目を集めている背景には、防災の視点があります。首都直下地震への備えとして、中央省庁や中枢機能を分散させるべきだという主張は、理論的には一定の説得力を持ちます。
一方、東京都は首都圏近郊でのバックアップ機能整備を重視し、完全な機能移転には慎重です。実務面やコスト、都市機能の連続性を考えれば、簡単に結論が出る問題ではありません。
「成長の軸」をどう描くか
副首都構想が単なる防災対策にとどまらず、「新たな成長軸の形成」を目指すのであれば、その実現性はさらに問われます。行政機能を移せば地方が活性化するという単純な話ではなく、人材、企業、投資が循環する仕組みが不可欠です。
東京一極集中を是正するという言葉は分かりやすいものの、代替となる都市モデルを具体的に描けているかどうかが、今後の焦点になります。
結論
東京一極集中を巡る議論は、単なる「東京対地方」の対立では整理できません。税財政、人口動態、外国人政策、防災、都市競争力といった複数の論点が複雑に絡み合っています。
東京都は世界都市としての競争力を高める一方、国内では地方や国との調整に苦慮しています。税収偏在是正や副首都構想は、その象徴的な表れと言えるでしょう。
重要なのは、感情的な是正論ではなく、日本全体としてどのような都市構造と財政構造を目指すのかという長期的な視点です。東京の成長をどう活かし、地方とどう分かち合うのか。その設計図が、いま改めて問われています。
参考
・日本経済新聞「攻防 東京一極集中(上) 地方・国との協力にひずみ」(2025年12月26日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

