日本型資本主義は、いま大きな分岐点に立っています。
戦後長く続いた終身雇用や年功賃金を前提とする企業社会は、グローバル化や金融市場の変化、デジタル技術の進展によって大きく姿を変えました。近年は株主重視の経営が進む一方で、賃金の伸び悩みや人材投資の不足が指摘されています。
本稿では、日本経済新聞の論考を手がかりに、日本型資本主義をめぐる三つの潮流を整理し、今後の方向性として何が問われているのかを考えてみます。
現在の日本型資本主義をめぐる三つの潮流
現代日本の資本主義には、大きく分けて三つの異なる流れが同時に存在しています。
第一は、金融・株主資本主義の強化です。
コーポレートガバナンス改革の進展により、株主還元は急速に拡大しました。株価上昇が経営成果として評価され、企業は配当や自社株買いを強く意識するようになっています。家計資産も預金から投資へと移行し、金融市場の存在感は高まっています。DXやAIと結びついたこの流れは、成長と変革を促す一方で、格差拡大という副作用も伴います。
第二は、国家の関与を強める国家資本主義的な潮流です。
GXやDXを軸とした産業政策、防衛・経済安全保障分野への支出拡大など、政府が戦略的に経済に関与する場面が増えています。官民連携による技術開発は重要ですが、国家主導が過度になれば民間の創意工夫を損なうリスクもあります。
第三は、戦後日本を支えたステークホルダー型、あるいはコミュニティー型資本主義の再構築です。
賃上げや分配の重視、地域活性化、人材育成への投資を通じて、企業と社会の持続可能性を高めようとする考え方です。岸田政権が掲げた新しい資本主義も、この流れに位置づけられます。
「人への投資」が後回しにされてきた現実
三つの潮流の中で、現実には金融・株主資本主義が相対的に優位に立っています。
企業の内部留保はGDPに匹敵する水準に達し、配当は設備投資と肩を並べる規模になりました。一方で、労働分配率は低下し、企業による教育訓練投資は国際的に見て見劣りする水準にとどまっています。
日本は人材こそ最大の資源とされてきましたが、その人材への投資は十分とは言えません。賃上げが行われても、インフレによって実質賃金は伸び悩み、将来への不安は解消されていないのが実情です。
歴代政権は人材投資を掲げてきましたが、掛け声倒れに終わってきた面は否定できません。
求められるのは「制御された不均衡」
重要なのは、三つの潮流のいずれか一つを選び、他を排除することではありません。
金融資本主義は起業や技術革新を促す力を持っていますし、国家の関与は安全保障やGX・DXの推進に不可欠です。しかし、それらが暴走しないように抑制し、社会全体の安定と成長を両立させる役割を担うのが、ステークホルダー型資本主義です。
言い換えれば、日本に求められているのは完全な均衡ではなく、創造的な緊張関係を保った制御された不均衡です。その中心に据えるべき軸が、人への投資だといえます。
結論
日本型資本主義の将来は、人材への投資を実体のある戦略として実行できるかにかかっています。
企業の内部留保を賃金や教育、再訓練へとつなげ、マクロ経済とミクロの行動を整合させることが不可欠です。それは単なる分配政策ではなく、長期的な成長戦略でもあります。
金融、国家、コミュニティーという三つの力を調和させながら、日本が民主主義的価値を守りつつ経済変革を進められるか。その試みは、日本だけでなく、同じ課題に直面する多くの国にとっても重要な示唆を与えるものとなるでしょう。
参考
・日本経済新聞 経済教室
ヒュー・ウィッタカー「日本型資本主義の行方 人への投資で均衡探れ」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
