日本企業のM&Aが過去最高水準に 市場改革圧力が企業行動を変え始めた

FP
ブルー ピンク イラスト メリットデメリット 比較 記事見出し ブログアイキャッチ - 1

2025年、日本企業が関わるM&A(合併・買収)が、件数・金額ともに過去最高水準となりました。金額は33兆円に達し、これまで最高だった2018年の29兆円を7年ぶりに上回っています。
この動きは一過性のブームではなく、日本企業を取り巻く環境が構造的に変わりつつあることを示しています。背景にあるのは、株式市場や投資家からの改革圧力の強まりです。本稿では、2025年のM&A動向を整理しながら、日本企業と市場の関係がどのように変わりつつあるのかを考察します。

2025年のM&Aが示す3つの潮流

海外成長投資の本格化

第一の潮流は、海外への成長投資です。特に金融機関による大型案件が目立ちました。
国内金利の上昇により収益力が改善した銀行や、政策保有株式の売却を進めてきた損害保険会社は、潤沢な資金を背景に海外M&Aへ踏み出しています。米国やインドなど成長余地の大きい市場への投資は、国内市場の成熟を踏まえた合理的な選択といえます。

これまで日本企業は、海外投資に慎重すぎるとの評価を受けることがありました。しかし近年は、為替リスクや地政学リスクを織り込んだうえで、事業ポートフォリオを国際的に再構築する動きが明確になっています。

グループ再編による資本効率の見直し

第二の潮流は、国内企業同士によるグループ再編です。
長年続いてきた親子上場や複雑な資本関係が、企業価値を分かりにくくしているとの批判は以前からありました。2025年は、そうした構造にメスを入れる動きが本格化した年といえます。

国内企業間のM&A金額が26年ぶりに10兆円を超えたことは象徴的です。企業が市場と真剣に向き合い、過去から検討してきた再編戦略を実行段階に移し始めた結果といえるでしょう。

ファンドによる非公開化の拡大

第三の潮流は、投資ファンドによる上場企業の非公開化です。
株式市場では短期的な業績や株価が注目されがちですが、長期視点での構造改革や成長投資が進めにくい側面もあります。そこで、上場を廃し、ファンドのもとで腰を据えた改革を行う選択をする企業が増えています。

アクティビストとの対立を経験した企業が、あえて非公開化を選ぶケースもあり、市場との距離の取り方を再定義する動きとも捉えられます。

市場からの改革圧力がM&Aを後押しする構図

これら三つの潮流に共通するのは、市場からの改革圧力です。
東京証券取引所は、資本効率やガバナンスの改善を強く求めており、経済産業省も買収提案への真摯な対応を企業に促しています。企業にとって、現状維持は許されにくくなっているのが実情です。

運用会社による議決権行使の厳格化も、企業行動を変えています。資本効率の改善に消極的な企業に対しては、取締役選任への反対などを通じて、再編や事業整理を迫るケースが増えています。

世界的なM&A活況と日本の位置づけ

世界全体を見ても、M&A市場は活況です。2025年の世界のM&A金額は4兆ドルを超え、過去20年で2番目の水準とされています。AI分野をはじめとする技術革新が、業界再編を加速させています。

こうした流れの中で、日本市場はこれまで相対的に出遅れてきました。しかし近年は、海外投資家や買収ファンドの関心が高まり、日本企業も変革の対象として本格的に見られるようになっています。
国内総生産に対するM&A金額の比率が今後数年で10%に近づくとの見方もあり、日本経済におけるM&Aの存在感は一段と高まる可能性があります。

税務・実務の視点から見た注意点

M&Aの活発化は、税務や会計の実務にも大きな影響を与えます。
組織再編税制の適用可否、のれんの会計処理、株式評価、国際税務対応など、検討すべき論点は多岐にわたります。特に中小企業やオーナー企業では、事業承継や相続対策とM&Aが密接に絡むケースも少なくありません。

市場環境の変化を背景にM&Aが現実的な選択肢となりつつある今、経営者だけでなく、専門家側にもより高度で横断的な視点が求められています。

結論

2025年のM&A過去最高更新は、日本企業が変わり始めたことを示す重要なサインです。
市場からの改革圧力を受け、企業は資本効率や成長戦略を真剣に見直し、M&Aという手段を積極的に活用し始めています。この流れは一時的なものではなく、今後数年にわたって続く可能性が高いと考えられます。

日本企業がどのように市場と向き合い、変革を実行していくのか。その過程で、M&Aはますます重要な役割を果たしていくでしょう。

参考

・日本経済新聞「日本企業のM&A最高 7年ぶり、33兆円に 市場から改革圧力」
・LSEG 世界M&A統計資料
・経済産業省 企業買収に関する指針関連資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました