日本は「アジア最大の起業大国」になれるのか スタートアップとAI時代のイノベーション戦略

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日本は過去30年、経済規模こそ一定を保ってきたものの、世界における競争力という点では後退を続けています。少子化が進み、生産年齢人口が縮小する中で、既存産業の延命だけでは国の活力維持は難しくなりつつあります。その中で、これからの日本に必要なのは、イノベーションを生み出す力を持ったスタートアップを経済の中心に押し上げていくことです。

DeNA会長・南場智子氏が語る「アジア最大のスタートアップハブとしての日本」という構想は、単なるビジョンではなく、これからの日本の産業戦略の方向性を示唆しています。本稿では、日本が起業大国として再生するための課題と可能性を多面的に整理していきます。

1 日本が競争力を失った最大の理由:イノベーションの不足

日本企業が失速した理由をひと言でいえば、イノベーションの停滞です。

  • 新しい産業が育ちにくい
  • スタートアップの規模が小さい
  • 大企業は変化に慎重で、破壊的挑戦が起きにくい
  • 人材がリスクを取るキャリアモデルが広がらない

こうした環境では、世界的な技術革命が起きても日本発のイノベーションが生まれにくくなります。

特にAIの分野では、ビッグテック4社が年間60兆円規模の投資をしており、日本企業が同じ土俵で競うことは現実的ではありません。しかし南場氏が強調するように、AIの恩恵は基盤を構築する側だけに留まらないという点が重要です。

基盤の上で新しいアプリケーションを作り、価値を提供するスタートアップには大きなチャンスがあります。


2 AI時代の競争は「基盤より応用」

汎用型AI(foundation models)を作れるのは米中の巨大企業が中心です。しかし、価値を生み出すのはモデルそのものではなく**ユースケース(活用シーン)**です。

そして、ユースケースの多くは「地域・社会・産業ごとの固有課題」から生まれます。

  • 日本の医療DX
  • 高齢化対応のケアテック
  • 中小企業の生産性向上
  • 地方産業の再構築
  • 行政手続きの自動化
  • 交通・物流の最適化

こうしたテーマは海外企業よりも国内スタートアップの方が圧倒的に強みを持っている領域です。

つまり、
日本がAI時代に巻き返すなら、応用領域(アプリケーション)が主戦場になる
ということです。


3 大企業は「石灰化」している——破壊はスタートアップが担う

南場氏が強調する大企業の課題は「石灰化」です。

  • 意思決定が遅い
  • リスクが取れない
  • 破壊的イノベーションが起きない
  • 新規事業が既存事業の制約を受ける

こうした構造は、世界でも共通の課題です。

では、誰が破壊的挑戦を担うのか。
答えは明確で、スタートアップです。

スタートアップは

  • 小規模ゆえの意思決定の速さ
  • リスク許容度の高さ
  • 既存ビジネスからの束縛のなさ
  • 高度な専門性と熱量

を備えており、破壊的変化に向いた構造を持っています。

特に日本では、「敗者を嫌う文化」がイノベーションを妨げてきました。しかしAI時代はスピードと挑戦が競争力の源泉になるため、社会全体の価値観も変革が求められています。


4 DeNAの起業支援モデルが示す新時代のキャリア像

南場氏のインタビューで特に印象的なのは、社員が「起業前提」でDeNAに入ってくるという点です。

  • 会社側が「そろそろ独立はどうだ」と背中を押す
  • 資金だけでなく社内リソースも提供
  • 失敗したら戻ってきても構わないという文化
  • 起業家人材が社内外を循環する

この仕組みは「遠心力経営」のように見えますが、実は逆で、
起業家を惹きつける巨大な求心力になっています。

スタートアップ志向の人材にとって、

  • リスクを取る機会がある
  • 失敗してもキャリアが途切れない
  • 仲間が挑戦している空気がある

という環境は極めて魅力的です。

日本ではまだ少ない「起業家を輩出する企業文化」のモデルとして、DeNAの取り組みは参考になる点が多いと言えます。


5 海外資金を引き込むエコシステムが不可欠

日本のスタートアップは勢いを増していますが、資金規模ではまだ米国とは大きな差があります。

  • 大型調達環境の不足
  • 海外VCとの接点不足
  • グローバル展開の支援不足

こうした課題を超えるには、海外資金の流入が決定的に重要です。

特にAIやディープテック領域では、初期段階から数十億〜数百億円の資金が必要になることもあります。海外からの資金呼び込みを積極化させることは、イノベーション国家を目指す上で避けられないテーマです。


6 「アジア最大のスタートアップハブ」としての日本

南場氏が掲げるビジョンは明快です。

日本をアジアで最も起業しやすい国にする

  • 優秀な人材が集まる国
  • 起業家が夢を追える国
  • 失敗が受容される国
  • 海外からアクセスしやすい国

実は日本には強力な制度も存在しています。

例:

  • 未来創造人材制度(J-Find)
  • 高度人材向けの在留資格
  • 起業家向けアクセラレーションプログラム
  • 大学発スタートアップ支援制度

しかし、南場氏が指摘するように、日本政府はそれを海外に向けて積極的に発信していません。
起業家が必ず読む海外メディア(TechCrunchなど)への情報発信が弱いのが現状です。

「知ってもらえれば日本を選ぶ人はもっと増える」
という視点は極めて重要です。


7 AI時代にこそ価値をもつ「人間のドラマ」

インタビューの最後で南場氏は、個人的に「スポーツ」の価値に注目すると語っています。

  • AIで作られたコンテンツが増える
  • どこまでが本物か分からない世界になる
  • 人間らしさへの渇望が高まる
  • 勝ち負けが生む“非予定調和”こそ最大の価値

この視点は非常に示唆に富んでいます。
AIが創造物を大量生産する時代だからこそ、人間の偶然性・不完全さ・努力・運命といった「生のドラマ」が逆に価値を持つ。

スタートアップも同じで、
失敗や成功、努力の積み重ね、思いがけない展開
といった要素が生まれる領域は、AIでは代替できません。


結論

日本が「起業大国」として再生するには、以下の条件が欠かせません。

  • AIの基盤競争ではなく、応用領域(アプリケーション)に勝負する
  • 大企業の石灰化を突破し、スタートアップが主流へ躍進する
  • 起業家を支援し、失敗が許容される環境をつくる
  • 海外資金を積極的に呼び込む
  • アジア最大のスタートアップハブとして位置付ける
  • 起業家人材が企業内外を循環するエコシステムをつくる

AIの発展は、日本にとって大きなチャンスです。
少子化によって人口成長が望みにくい日本だからこそ、知的創造による価値創出こそが未来の競争力になります。

スタートアップの躍進は、もはや“希望”ではなく“必然”です。
日本が再び活力ある国となるための鍵は、挑戦する若者を後押しし、世界から起業家が集まる場所へと変わることにあります。


参考

・日本経済新聞「日本、アジア一の起業大国に」(2025年12月4日)
・スタートアップ政策・AI産業に関する各種資料より再構成


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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