日本のスタートアップ政策が、資金の出し手と受け手の関係を大きく変えようとしています。
政府・与党は、スタートアップの未公開株を取得する企業に対する税優遇措置を拡充し、これまで対象外だった出資比率50%以下のマイナー出資も支援の枠組みに加える方針を示しました。
これまでの制度は「経営権取得」が前提でしたが、今回の見直しは「連携・共存」を重視する方向への転換とも言えます。本稿では、この税制改正の内容を整理したうえで、日本のスタートアップ成長にどのような影響をもたらすのかを考えていきます。
オープンイノベーション促進税制とは何か
今回の見直しの軸となるのが、オープンイノベーション促進税制です。
この制度は、大企業などがスタートアップに出資し、共同研究や事業連携を進めることを後押しするため、取得した株式の一定割合を所得控除できる仕組みです。
現行制度では、議決権の過半数を取得する、いわば子会社化を前提とした出資が対象でした。取得額の25%を課税所得から控除できる一方で、マイナー出資は制度の射程外に置かれていました。
出資比率50%以下も対象にする意義
今回の改正では、新たに出資比率50%以下の区分を設け、取得額の20%を所得控除の対象とする方向で調整が進められています。
3億円以上の出資を対象とする案が示されており、一定規模の本気の関与を求めつつ、経営権取得までは求めない設計です。
これは、大企業とスタートアップの関係性を「買収か無関係か」という二択から、「戦略的パートナーシップ」へと広げる意味を持ちます。
技術は欲しいが、完全子会社化までは踏み切れない企業にとって、税制面の後押しは出資判断のハードルを下げる効果があります。
出資額要件引き上げが示す政策の狙い
一方で、新株取得に関する最低出資額は引き上げられます。
大企業による新株取得は2億円以上、50%超の出資は企業規模を問わず7億円以上とされる見込みです。
この点から読み取れるのは、形式的な小口出資ではなく、スタートアップの成長段階を本格的に支える資金供給を求めているという政策意図です。
数は少なくとも、規模のある投資を呼び込みたいという姿勢が明確になっています。
海外投資マネーの呼び込みも同時に進める
今回の改正は国内企業だけに向けられたものではありません。
日本のベンチャーキャピタルが運用するファンドに対し、海外投資家が出資する場合の非課税特例についても、出資比率要件を25%未満から50%未満へと緩和する方針が示されています。
これは、日本のスタートアップ市場を国際的な資金循環の中に位置づけ直す試みといえます。
国内資金だけではスケールしにくい分野に、海外マネーを呼び込むための制度的な環境整備が進められています。
背景にある小粒IPO問題と資金調達の歪み
こうした税制改正の背景には、日本のスタートアップ特有の課題があります。
資金調達額のGDP比は米国やシンガポールに大きく水をあけられており、成長資金が十分に供給されていません。
その結果、M&AよりもIPOによる出口が選好され、成長途上の段階で上場する小粒IPOが増えてきました。
時価総額が小さいまま上場すると、機関投資家の投資対象になりにくく、上場後の成長資金も確保しづらくなります。
今回の見直しは、M&Aやセカンダリー取引など、IPO以外の資金回収ルートを育てるための土台づくりとも位置づけられます。
結論
今回の新興株取得に対する税優遇拡充は、単なる減税措置ではありません。
スタートアップを「育ててから上場させる」「売却や連携で成長させる」という、より多様な成長モデルを日本に根付かせるための制度的メッセージです。
経営権取得を前提としない出資を評価する姿勢は、大企業とスタートアップの関係性を柔軟にし、技術と資本の循環を促します。
この税制が、日本のスタートアップが小さくまとまる構造を変えるきっかけになるのか。今後の企業行動と市場の変化が問われる局面に入っています。
参考
・日本経済新聞「新興株取得企業に税優遇 出資比率50%以下も対象」(2025年12月18日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

