改正下請法が示す「価格転嫁は当然」という転換点

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2026年1月、中小企業を取り巻く取引環境が大きく変わります。
中小受託取引適正化法、いわゆる改正下請法が施行され、業務を委託する側の企業に対して、価格交渉に応じる義務が明確に課されることになります。

物価上昇と賃上げが同時に進む局面において、これまで長く放置されてきた中小企業の価格転嫁問題に、法制度として真正面から切り込む改正です。本稿では、改正下請法のポイントと、その背景にある日本経済の構造問題、そして今後の課題について整理します。

約20年ぶりの大改正、その核心

今回の改正下請法は、約20年ぶりの大規模な見直しです。
従来の下請法は、資本金額を基準として適用対象を定めていましたが、改正後は従業員数の要件も加わり、より多くの企業が規制対象となります。

また、対象となる取引も拡大され、製造委託や修理委託に加え、特定運送委託が新たに含まれました。物流コストの上昇が社会問題化する中で、重要な変更といえます。

しかし、最大のポイントは別にあります。それは、委託する側の企業に対して、価格交渉に応じる義務を明確に課したことです。

「協議しない」こと自体が違反となる意味

これまでの下請法でも、不当に低い代金の決定は禁じられていました。ただし、実務の現場では、下請側が価格交渉を申し入れても、発注側が応じず、一方的に価格を決めるケースが少なくありませんでした。

改正後は、この対応が明確に違法となります。
下請側から要請があったにもかかわらず協議に応じない場合、違反とされ、50万円以下の罰金や社名公表といった措置の対象となり得ます。

これは、価格転嫁を単なる努力目標ではなく、取引上のルールとして位置づけた点で、大きな転換です。

背景にある中小企業の賃金停滞

この改正の背景には、日本の賃金構造の歪みがあります。
名目賃金は近年上昇に転じたものの、その恩恵は主に大企業に偏っています。企業規模による賃上げ率の格差は依然として大きく、中小企業では賃上げの原資確保が難しい状況が続いています。

政府調査によれば、中小企業のコスト上昇分の価格転嫁率は約5割にとどまり、特に労務費の転嫁が大きく遅れています。サプライチェーンの下流に行くほど転嫁率が低下する傾向も顕著です。

この状況下で中小企業に賃上げを求め続けることには、限界があります。価格転嫁を進めなければ、賃上げの持続性は確保できません。

法改正だけでは足りない現実

もっとも、法律ができただけで状況が一変するわけではありません。
日本では、長期のデフレを通じて、コスト増は下請側が吸収すべきだという考え方が取引慣行として定着してきました。

関係悪化を恐れ、価格交渉そのものをためらう中小企業も少なくありません。この心理的な壁を超えなければ、改正下請法の実効性は限定的なものにとどまります。

その意味で、今回の改正は法制度の変更であると同時に、社会通念の転換を求めるものだといえます。インフレ環境下では、価格転嫁は例外ではなく前提であるという認識を、取引の現場に浸透させる必要があります。

26年春季労使交渉が試金石に

改正下請法の実効性を測る最初の大きな機会が、2026年春季労使交渉です。
すでに一部の業界団体や労働組合は、取引先との真摯な価格交渉を促す動きを始めています。

今後は、業界団体、労働組合、そして行政が連携し、違反事例の是正や周知を進めていくことが重要になります。特定の企業だけの問題にせず、取引慣行全体を見直す姿勢が問われます。

結論

改正下請法は、中小企業の価格転嫁を後押しし、賃上げの原資を確保するための重要な一歩です。ただし、その成否は法律の条文ではなく、現場での受け止め方にかかっています。

物価が上がれば価格も上がる。その結果として賃金が上がる。
この当たり前の循環を日本経済に根付かせることができるかどうかが、今後の実質賃金の行方を左右します。

中小企業が安心して価格交渉を行える環境を整えることは、特定の企業や業界の問題ではありません。働く人の約7割を占める中小企業の持続的な成長なくして、日本経済全体の底上げはあり得ません。

改正下請法は、その覚悟が問われる制度だといえるでしょう。

参考

日本経済新聞「改正下請法、1月施行 『価格転嫁当然』の通念を」(2025年12月14日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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