国税庁が2025年6月までの1年間についてまとめたところ、所得税の追徴税額が1431億円と過去最多を更新しました。追徴額の増加は3年連続です。背景には富裕層への重点調査とともに、国税庁が本格的に導入したAIによる調査対象者の選定が挙げられます。税務調査のデジタル化が急速に進むなか、納税者に求められる姿勢も変わりつつあります。本稿では、今回の発表内容と税務行政の潮流を整理し、今後の働き方や資産形成に与える影響について考えていきます。
所得税追徴が過去最多となった理由
2024年事務年度の所得税追徴税額は1431億円で、前年度比2.4%増となりました。統計方法が現在の形になった2009年度以降で最多の水準です。加えて、無申告者に対する追徴税額も252億円と過去最多となりました。国税庁が掲げるデジタル化の推進、特にAIを活用した調査の効率化が数字を押し上げたといえます。
富裕層の申告漏れ所得は837億円と前年から27.8%増加しました。追徴税額も207億円まで積み上がっています。富裕層とは、有価証券や不動産の大口保有者や、継続的に高い所得を計上している層を指します。資産運用・不動産取引・海外関連取引など、複雑な所得構造を持つ人ほど調査対象となりやすくなっています。
AI活用がもたらす調査の効率化と精度向上
国税庁は2023年度からAIを本格導入し、申告情報や過去の調査データをもとに「申告漏れの可能性が高い納税者」を判別しています。この仕組みは、職員が調査対象を選ぶ際の参考として使われ、調査の精度を大きく押し上げています。
AIは大量のデータからパターンを抽出するため、例えば次のような点が検知されやすくなります。
・過去の所得推移と申告状況の不整合
・資産移動や証券取引量の増加とのギャップ
・ネット販売や副業収入に関するデータとの不一致
・海外送金や暗号資産の取引履歴との不整合
今回、大阪国税局ではトレーディングカード販売による無申告事案が摘発されました。顧客とのメール記録など、デジタル証跡が明確に残る時代では、取引の透明化がますます進んでいます。
実地調査と簡易接触の広がり
24年度の調査件数は実地調査が46,896件、電話や面談による簡易接触が689,440件で、合計73万件を超えました。実地調査は対面での確認が中心で、所得構造が複雑な事案が対象となります。一方、簡易接触は幅広い納税者におよび、AIによって抽出された「改善が必要な申告」を効率的に修正する仕組みです。
デジタル社会で求められる納税者の備え
今回のデータが示すのは、税務行政がAI活用を通じて抜本的に進化しているという事実です。納税者側も次のような点を意識する必要があります。
・取引履歴や証憑の一貫した保存と整理
・副業やネット販売など小規模取引の適切な計上
・暗号資産や海外取引の税務的把握
・投資・不動産の収支管理の精緻化
デジタル化が進むほど、曖昧な部分は残りにくくなります。申告の精度そのものが、将来のトラブル回避に直結します。
結論
所得税の追徴額が過去最多となった背景には、調査件数の増加ではなく、AI導入による調査精度の向上があります。富裕層の申告漏れが増えたことも注目される一方、無申告者への対応も強化されています。税務行政のデジタル化は今後も加速するとみられ、所得の種類や規模にかかわらず、納税者には一貫した記録管理と透明性の高い申告が求められていく時代です。
税金は制度の理解と整理の積み重ねによって不安を軽減できます。AIが税務調査を変えていく今こそ、普段の記帳や証憑管理を見直す良い機会だといえます。
参考
・日本経済新聞「所得税追徴、最多1431億円」2025年12月12日朝刊
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

