令和8年度税制改正大綱では、個人所得課税に関して重要な見直しが盛り込まれました。
中でも注目されているのが、所得税の課税最低限が178万円に引き上げられる点と、基礎控除・給与所得控除を物価に連動して見直す新たな仕組みの創設です。
これまで「年収の壁」は政治的にも社会的にも繰り返し議論されてきましたが、今回の改正は一時的な調整ではなく、物価上昇を制度に組み込む点に特徴があります。
本稿では、改正内容を整理しながら、実務・生活の両面で押さえておくべきポイントを解説します。
基礎控除・給与所得控除を物価に連動させる仕組み
令和8年度税制改正では、基礎控除と給与所得控除の最低保障額について、物価上昇に応じて2年ごとに見直す仕組みが新たに導入されます。
具体的には、令和6年10月から7年10月までの2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率を基に控除額を再計算します。
今回の初回見直しでは、
- 基礎控除(本則)は、現行58万円から62万円へ
- 給与所得控除の最低保障額は、現行65万円から69万円へ
それぞれ引き上げられます。
この見直しは、合計所得金額2,350万円以下(給与収入2,545万円以下)の人が対象となります。
なお、源泉徴収実務への影響を考慮し、初年度は年末調整で対応することとされています。
課税最低限178万円の仕組み
物価連動の見直しとは別に、所得水準が比較的低い層を対象とした追加的な引き上げも行われます。
合計所得金額489万円以下(給与収入665万円以下)の人について、基礎控除の特例加算額が拡充され、
- 給与収入200万円以下
- 200万円超475万円以下
- 475万円超665万円以下
いずれの層でも、最終的に加算額は42万円に統一されます。
あわせて、給与所得控除の最低保障額についても、新たな特例により5万円の上乗せが行われます。
これらの措置により、所得税がかからない年収の水準は178万円となります。
現行制度から見ると18万円の引き上げとなり、いわゆる「年収の壁」への対応として一定の効果が見込まれます。
住民税との違いに注意
個人住民税については、所得税と同じ水準まで課税最低限が引き上げられるわけではありません。
住民税では、給与所得控除の引き上げ分のみが反映され、
- 課税最低限は119万円
- 適用は令和9年度分から
となります。
所得税と住民税で適用時期・金額が異なる点は、制度理解や説明の場面で特に注意が必要です。
特例は時限措置だが「178万円」は維持
今回の引き上げには特例措置が多く含まれていますが、制度設計上のポイントは、生活保護基準との関係です。
生活保護基準額が178万円に達するまでは、所得税の課税最低限178万円を維持しつつ、
- 物価連動による本則部分の引き上げ
- 特例部分の縮小
を段階的に切り替えていく方針が示されています。
単なる時限措置で終わらせず、実質的な最低限を維持しようとする意図が読み取れます。
ひとり親控除の拡充
あわせて、ひとり親控除も見直されます。
- 所得税:35万円 → 38万円
- 個人住民税:30万円 → 33万円
子育て負担への配慮としての改正であり、
所得税は令和9年分から、住民税は令和10年度分から適用されます。
結論
令和8年度税制改正における個人所得課税の見直しは、
「年収の壁」対策という側面だけでなく、物価上昇を制度に組み込む転換点といえます。
課税最低限178万円という数字だけを見るのではなく、
- 物価連動の仕組み
- 所得税と住民税の違い
- 特例と本則の関係
をセットで理解することが重要です。
今後の物価動向次第では、実務や家計への影響もさらに広がる可能性があり、継続的な注視が欠かせません。
参考
・税のしるべ
令和8年度税制改正大綱を読む(第5回)個人所得課税②
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
