年収の壁178万円へ引き上げへ――中間層減税と防衛増税をどう読むか

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「年収の壁」を178万円に引き上げる方針が、政府・与党と国民民主党の合意により固まりました。
あわせて、防衛力強化の財源として検討されてきた所得税の増税についても、2027年1月から実施する方針が示されています。

一見すると、減税と増税が同時に語られる分かりにくい政策ですが、その背景には、物価高への対応、中間層への配慮、そして少数与党下での政治的調整という複数の要因が重なっています。
本稿では、今回の「年収の壁178万円」決定の中身と、その意味合いを整理していきます。

年収の壁とは何か――178万円の意味

所得税がかかり始める年収ラインは、「基礎控除」と「給与所得控除」の合計で決まります。
会社員の場合、この合計額がいわゆる「年収の壁」として意識されてきました。

これまでの制度では、年収に応じて基礎控除額が段階的に減少し、最大の控除が受けられるのは年収200万円以下に限られていました。その結果、給与所得控除と合わせた非課税枠は最大でも160万円にとどまっていました。

今回の改正では、この非課税枠を178万円まで引き上げるとともに、最大の基礎控除を受けられる対象を年収665万円以下まで拡大します。
これにより、納税者全体の約8割が減税の恩恵を受けるとされています。

中間層への減税拡大という転換

今回の見直しで注目すべき点は、「低所得層対策」にとどまらず、中間層を明確に減税対象に含めたことです。

国民民主党は、1995年当時の年収103万円という基準が、最低賃金の上昇や物価上昇を十分に反映していないと主張してきました。最低賃金の伸びを基に再計算すると、非課税枠は178万円程度になるという考え方です。

自民党がこの主張を受け入れた背景には、物価高が長期化する中で、中間層の可処分所得を押し下げることへの危機感があります。賃上げが追いつかない層に対し、税制で手当てするという判断が働いたとみられます。

CPI連動という新たな仕組み

今回の改正では、控除額の引き上げを「一度きり」で終わらせず、消費者物価指数(CPI)の伸びに連動させ、2年に1回見直す仕組みが導入されます。

直近2年間でCPIは約6%上昇しており、これを反映して基礎控除と給与所得控除を合計で8万円引き上げる計算です。
制度としては、インフレ局面での実質的な増税を防ぐ役割を持つことになります。

一方で、物価が下落または横ばいの場合には控除額が据え置かれる可能性もあり、今後の経済環境次第では実効性が問われる局面も出てきます。

財源問題は置き去りのまま

減税の一方で、財務省は今回の措置による減収規模を年約6500億円と試算しています。
財源については、物価上昇に伴う自然増収に頼る部分が大きく、明確な裏付けは示されていません。

同時に、防衛費増額の財源として予定されている所得税の増税は、2027年1月から実施される予定です。税率は所得税額の1%相当ですが、復興特別所得税の税率を引き下げることで、当面の単年度負担は増えない設計とされています。

ただし、これは「将来的な恒久増税」を先送りしているに過ぎず、制度全体としての負担構造が軽くなったわけではありません。

少数与党下の政治判断

今回の合意は、税制そのものの合理性だけでなく、政治状況の影響を強く受けています。
参院で過半数を持たない与党にとって、2026年度予算案を成立させるためには野党の協力が不可欠でした。

国民民主党の公約を大幅に取り入れる形で「年収の壁178万円」が決まり、防衛増税の時期も明確化されたのは、その調整の結果といえます。
税制が毎年「つぎはぎ」になる背景には、こうした政治的事情があることも見逃せません。


結論

年収の壁を178万円に引き上げる今回の決定は、物価高に対応しつつ、中間層の負担軽減を明確に打ち出した点で、これまでの税制改正とは一線を画しています。

一方で、財源の議論は十分とは言えず、防衛費増額に伴う将来負担も残されたままです。
減税と増税を同時に進める税制は、短期的な家計支援と長期的な財政運営の間で、常に緊張関係を抱えることになります。

今回の改正はゴールではなく、今後の税制と社会保障をどう組み立て直すのかという、より大きな議論への入口と位置づけるべきでしょう。


参考

  • 日本経済新聞「年収の壁178万円に上げ 中間層も負担減」(2025年12月19日朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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