子育て支援金は「実質負担なし」なのか――2026年4月から始まる新たな社会保険方式をどう読むか

FP

2026年4月から、「子ども・子育て支援金」の徴収が始まります。
会社員で年収800万円の場合、月767円が給与から天引きされる見通しです。年収に応じて負担額が決まり、独身かどうか、子どもがいるかどうかにかかわらず、同じ年収であれば同額を負担する仕組みとなっています。

政府はこれを「全世代で子育てを支える仕組み」と説明し、同時に「社会保険料の抑制により、実質的な負担増は生じない」としてきました。しかし、制度の中身を丁寧に見ていくと、いくつか整理して理解しておくべきポイントが見えてきます。

本稿では、子育て支援金の仕組みと負担の実態、そしてこの制度をどう受け止めるべきかを、制度設計の観点から整理します。

子育て支援金とは何か

子育て支援金は、2024年6月に成立した改正子ども・子育て支援法に基づき創設された制度です。
少子化対策の安定財源として、社会保険方式で国民全体から広く薄く徴収することが特徴です。

財源規模は段階的に拡大し、
・2026年度:6,000億円
・2027年度:8,000億円
・2028年度:1兆円
を集める計画となっています。

徴収方法は、加入している公的医療保険ごとに異なりますが、原則として医療保険料に上乗せする形で徴収されます。

会社員・公務員の負担の仕組み

会社員や公務員の場合、健康保険料に0.23%が上乗せされます。
この負担は労使折半で、本人負担分はその半分となります。

試算によると、2026年度の本人負担額は次のとおりです。

・年収400万円:月384円
・年収600万円:月575円
・年収800万円:月767円
・年収1,000万円:月959円

ここで重要なのは、家族構成にかかわらず、年収が同じであれば負担額も同じという点です。独身者であっても、専業主婦の配偶者や子どもがいる世帯であっても、負担額は変わりません。

また、賞与にも支援金はかかるため、月収と賞与の配分によって、実際の「毎月の体感額」は人によって異なります。平均すると、1人あたり月500円程度になるとされています。

自営業・フリーランス、高齢者の負担

国民健康保険に加入する自営業者やフリーランスの場合は、世帯単位での負担となります。

目安としては、
・年収80万~100万円:月50円
・年収200万円:月400円
・年収300万円:月650円
程度とされています。ただし、国保は自治体ごとの差が大きく、実際の金額は居住地によって異なります。

なお、世帯人数に応じて金額は増えますが、高校生以下の子どもについては全額補助される仕組みが設けられています。

75歳以上が加入する後期高齢者医療制度では、
・年収80万~150万円:月50円
・年収200万円:月200円
程度とされ、低所得者への配慮措置もあります。

財源は何に使われるのか

子育て支援金を財源とする施策の一部は、すでに始まっています。

具体的には、
・児童手当の拡充(所得制限の緩和、高校生まで対象)
・妊娠・出産時の10万円給付
・育児休業給付の拡充

などが挙げられます。

これらの施策により、子育て世帯への給付は確実に手厚くなっています。一方で、支援金を負担する側は、必ずしもその恩恵を直接受けるとは限りません。

「実質負担なし」という説明をどう考えるか

政府は、子育て支援金の導入にあたって、「同額の社会保険料を抑制するため、実質的な負担増は生じない」と説明してきました。

確かに、高額療養費制度の見直しなどにより、2026年度までに6,000億円分の給付抑制策は積み上げられています。しかし、現実には次のような要因も存在します。

・医療・介護現場の人手不足に対応するための賃上げ
・物価上昇に伴う診療報酬・介護報酬の引き上げ
・高齢化の進展による医療・介護需要の増加

これらを考えると、「支援金が始まる一方で、保険料は全体として上がらない」と断言するのは難しい状況です。

さらに、2028年度までの不足分については、子ども・子育て支援特例公債の発行で賄うとされています。これは、将来世代へのツケを残す形でもあります。

この制度をどう受け止めるべきか

子育て支援金は、税ではなく社会保険方式を採用した点に特徴があります。
その結果、負担は比較的見えにくく、「いつの間にか天引きされている」形になります。

一方で、少子化対策を社会全体で支えるという考え方自体は、一定の合理性があります。将来の社会保障を担う子どもが減少すれば、現役世代も高齢者も、長期的には不利益を被るからです。

問題は、負担と給付の関係が分かりにくく、「なぜ自分が負担しているのか」を実感しにくい点にあります。今後は、給与明細への明示などを通じて、制度の見える化がどこまで進むかも重要になります。

結論

子育て支援金は、月数百円という金額だけを見れば、小さな負担に見えるかもしれません。しかし、社会保険方式で段階的に拡大し、最終的には年1兆円規模になる制度です。

「実質負担なし」という説明をそのまま受け取るのではなく、
・誰が、どのような形で負担しているのか
・その財源が、どの施策に使われているのか
・将来世代にどのような影響を残すのか

を冷静に見ていく必要があります。

子育て支援金は、単なる家計の話ではなく、社会保障全体の構造転換の一部です。制度の中身を理解したうえで、自分自身の働き方や家計設計、将来設計を考えることが、これまで以上に重要になっていくでしょう。

参考

・日本経済新聞「子育て支援金、来年4月から 年収800万円は月767円徴収」(2025年12月27日朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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