外国人による不動産取得規制はどう変わるのか 2026年以降の議論の焦点と、国際法との調整課題

政策

外国人や外国資本による不動産取得をめぐる議論が、再び大きく動き始めています。日本では従来、土地の所有権自体には国籍による制限がほとんどなく、個人・法人を問わず自由に取引できる制度が続いてきました。しかし、近年では安全保障やインフラ保全、地域コミュニティの維持といった観点から、より厳格な情報把握や規制の必要性が指摘されるようになっています。

自民党の「外国人政策本部」プロジェクトチーム(PT)は2025年年内にも提言をまとめる方針で、政府も2026年1月をめどに基本的な方針策定を進めています。今後の国内議論は、国際法や投資協定との整合性、安全保障と経済開放のバランス、地方の土地利用問題など、一つの視点では捉えきれない複雑な構造を持ちます。

本稿では、現在進む制度見直しの方向性、背景、そして論点を整理して解説します。

1 政府・与党が進める改革の骨格

現行制度では、外国人が日本国内で不動産を取得する際、国籍だけを理由とした制限は原則ありません。農地法などの個別法で一部の申請義務はあるものの、取引の全体像を政府が一元的に把握する仕組みはありませんでした。

政府はこの状況を改めるため、不動産の移転登記の際に国籍情報を共有し、データベース化する方針を固めています。2027年度の運用開始が見込まれ、取引全体を継続的に把握するための基盤づくりが前進します。

さらに、外為法の届け出対象の拡大も検討されています。現状では「国外からの投資目的の取得」に限り届け出が必要ですが、今後は投資目的以外の取得にも届け出を義務付ける案が議論されています。留学生が日本に移住して住宅を購入するケースなども含め、より広範囲で事前把握を行う可能性があります。

2 安全保障と土地利用規制

2022年に施行された「重要土地利用規制法」では、防衛施設・自衛隊基地・原発などの周辺で土地利用の届け出を義務付ける仕組みが整備されました。しかし、この法律は「利用の監視・規制」が目的であり、外国人による取得そのものを制限するものではありません

政府・与党の一部には、より踏み込んだ取得規制を求める声があります。特に以下のような懸念が挙げられます。

  • 重要インフラ周辺の土地の取得がセキュリティ上のリスクになるのではないか
  • 水源地・農地の大量取得が地域コミュニティに影響を与えるのではないか
  • 資本の出所が不透明な企業・SPCによる買収の増加

ただし、取得規制は国際法や投資協定との整合性の問題が避けられず、単純に「外国人だから禁止」とする制度設計は困難です。

3 規制の壁:国際法と「内国民待遇」

制度見直しの最大のハードルは、WTOの「サービス貿易に関する一般協定(GATS)」が定める内国民待遇の原則です。これは、参入後の事業活動について、自国民と外国人を不当に差別してはならないという国際的な義務です。

外国人を対象にだけ取得を制限した場合、

  • 投資・サービス市場に対する差別的取り扱い
  • 国際協定違反として相手国から問題提起
  • 二国間投資協定(BIT)との矛盾

などの課題が生じます。

政府内でも、「外国人のみを対象に取得規制を設ける場合、内国民待遇義務や国際協定との整合が必要」と明確に指摘されており、国際法との調整は避けられません。

4 規制に必要な論理:公益性の明確化

慶應義塾大学の松尾弘教授が指摘するように、外国人の取得規制には具体的な公益目的の提示が不可欠です。「安全保障上危うい」という抽象的な理由では法的根拠が弱く、個別法で守るべき利益(国家安全、インフラ保全、機密保護、農地保全など)が明確に整理されている必要があります。

これは、土地所有権が憲法上の財産権であり、外国人にも一定の保護が及ぶことを踏まえた制度論です。規制を導入するなら、以下のような整理が不可欠です。

  • どの地域を対象とするのか(重要インフラ周辺、国境離島など)
  • どのような行為を禁止・制限するのか
  • 外資か国内資本かで線引きをする理由は何か
  • 投資自由化の国際潮流とどう整合させるか

こうした法的・政策的整理なしに包括的規制を導入すると、国際的な摩擦が生じる可能性があります。

5 今後の焦点:規制強化か、情報把握の徹底か

現実的には、次の2つの方向性の組み合わせになる可能性が高いと考えられます。

(1)情報の徹底把握

国籍情報の登録
外為法の届け出対象拡大
SPC・実質支配者の把握
→「規制」よりも「監視・情報管理」に重心

(2)特定地域に限定した規制

国境離島
防衛施設・自衛隊基地周辺
海底ケーブル・エネルギー施設周辺
→公益性の高いエリアに限り、個別法で対応

全国一律の取得規制は国際法との衝突が大きいため、段階的な対応が現実的とみられます。


結論

外国人による不動産取得をめぐる議論は、安全保障と国際経済ルールの狭間で進む複雑な政策領域です。規制強化を求める声は高まっていますが、国際協定との整合性や財産権の保護といった法的制約も多く、単純に「外国人だから禁止」に舵を切ることはできません。

今後、政府が進める国籍情報の登録や外為法の届け出拡大は、規制や政策判断の基盤となる「情報整備」として重要なステップです。そのうえで、特に安全保障上の重要施設周辺では、より具体的な公益目的に基づいた限定的な規制が検討されるとみられます。

土地政策は、日本の経済開放性、投資環境、地域社会の持続性、安全保障のバランスを問う大きなテーマです。今後の政府方針は、不動産市場や地域政策に影響を与える可能性があり、継続した注視が必要になります。


参考

・日本経済新聞「外国人の不動産規制 自民PT、年内にも提言」(2025年12月4日 朝刊)
・国土交通省資料
・外為法関連資料
・重要土地利用規制法関連資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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