地元にとどまる若者が増えている?― データで読む“地元回帰”の背景 ―

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近年、地方での就職を選ぶ若者がじわりと増えてきていると言われます。長らく「若者は都市へ」という流れが日本の人口動態を形づくってきましたが、ここ数年はその傾向が変化しつつあります。就職活動の場面でも「地元に残りたい」「都市よりも暮らしやすさを重視したい」と語る学生に出会う機会が増えています。

この変化は単なる偶然ではなく、人口データ、家族形成、働き方の変化、社会保障制度、地域政策など複数の社会要因が重なった結果と考えられます。本稿では、若者世代の“地元回帰”がなぜ起きているのかを整理しながら、キャリア形成や人生設計の観点から考察します。

1. 若者の「地元回帰」は本当に起きているのか

総務省や各種研究機関のデータを見ると、地方から都市圏への転出は依然として存在します。しかし、その規模はピーク時より縮小し、特に20代前半で「地元残留率」が上昇しています。

●背景1:新卒採用の地域集中が弱まった

企業のオンライン面接の定着により、地方の学生が都市部企業を受けるために必ずしも移動する必要がなくなりました。その結果「都市に行かないと受けられない」という心理的障壁が下がり、地域ごとに複数の選択肢が生まれてきました。

●背景2:地方企業の採用意欲の高まり

人口減少と人手不足を背景に、地方企業は優秀な人材確保を急いでいます。待遇改善・研修制度の整備・若手向けキャリアパスの明確化など、人材獲得のための取り組みが進みました。

●背景3:リモートワークの普及

完全リモート・副業可の雇用形態が普及し、「地方に住みながら全国規模の仕事をする」ことが現実的になりました。このため「生活は地元で、仕事は都市圏レベル」という新しい選択が可能になっています。


2. 若者の価値観の変化

若い世代の価値観が“都市志向一辺倒”でなくなってきたことも、地元回帰の重要な要因です。

(1)「生活の質(QOL)」を重視

国際比較調査でも、Z世代・ミレニアル世代は収入だけでなく、働きやすさ・住環境・人間関係・余暇の充実をより重視する傾向があります。

地方は家賃が低く、自然が近く、人間関係も密になりやすいことから「暮らしやすさ」を理由に地元を離れない学生が増えています。

(2)家族・パートナーとの距離を重視

結婚やパートナーシップの形成が20代後半に集中している中で、

  • 実家の支援を受けられる
  • パートナーのキャリアとの調整がしやすい
  • 子育て環境が整っている

という理由から「都会ではなく地元を選びたい」という声が増えました。

(3)“ゆるいコミュニティ”志向

SNS時代の若者は、密すぎる関係性を避けつつも、孤独を避けたいという複雑なニーズを持っています。地方のコミュニティは都市部より「緩やかで距離感のあるつながり」が形成されやすく、心地よさを感じる人も多くいます。


3. 地元回帰を後押しする経済・社会の構造変化

若者の価値観だけでは地元回帰は説明しきれません。日本社会全体の構造的な変化も背景にあります。

(1)生活コストの上昇

都市部では、家賃・物価・教育費などが上昇し、可処分所得を圧迫しています。
同じ年収でも「どこで生活するか」によって手元に残る金額は大きく変わります。

地方の生活コストの低さは、長期的な家計管理において大きな強みです。

(2)人口減少に伴う地方施策の強化

自治体は若者の転出抑制に取り組んでおり、

  • 若者向け家賃補助
  • 奨学金返還支援
  • Uターン者採用への補助
  • 結婚・子育て支援の拡充

など、都市部より実質的に手厚い施策が増えています。

(3)介護・家族支援の将来リスク

団塊ジュニア世代が50代に入り、今後10〜20年で親の介護リスクが高まります。
「将来の介護負担」を本人・家族が想定し、実家の近くに住むことを選ぶ若者も増えています。


4. 若者の「地元回帰」は、実は合理的な選択

キャリア論では、都市部での経験は“成長機会が多い”とされてきました。しかし、現代の働き方ではその前提が崩れています。

●スキルは地理ではなく、個人の行動で獲得できる

オンライン研修、リモート副業、資格取得、コミュニティ参加など、地方からでも成長の機会はいくらでも得られます。

●転職市場は全国化している

求人のオンライン化で、地方在住のまま都市の企業に転職する人も増えています。

●都市部の高い生活コストはリスク

手取りの差が住宅費に吸い込まれ、資産形成が遅れるケースも多く見られます。
FP・税理士の視点からも、長期の家計戦略を考えると地方のコストメリットは無視できません。

●家族の支援を受けられる環境は強い

子どもが生まれたとき、親の介護が必要になったとき、身近に助け合える基盤は大きな価値です。

こうした要素を総合的に判断すると、若者の地元回帰は感情ではなく「長期合理性に基づく選択」と捉えることができます。


5. 地元を選ぶ若者に必要な「3つの視点」

地元で働く若者が増える一方で、キャリア上の課題が残るのも事実です。
そこで、地方就職を考える際に重要な3つの視点を整理します。

① 成長機会を外部から取りに行く

地方企業だけでは得られない刺激を、オンライン学習や副業・コミュニティを通じて補う必要があります。

② 転職可能性の確保

業界選びを慎重に行い、将来の選択肢が閉じないようにキャリア設計をすることが大切です。

③ 地元に「過度に依存」しない

家族の安心感は魅力ですが、あくまで自立的にキャリアを構築する姿勢が求められます。


結論

若者の地元回帰は、一見すると保守的に見えるかもしれません。しかし、データと社会動向を分析すると、その選択は生活の質、家族形成、資産形成、介護リスク、地域コミュニティなど、多くの要素を踏まえた合理的な判断だとわかります。

都市で働くか、地元で働くかという二項対立で考えるのではなく、自分がどんな生活を送りたいのか、どのような基盤で人生を築きたいのかを中心に考えることが重要です。
“働く場所”は人生の器そのものです。自分にとって最適な器は、必ずしも大都市にしか存在しないわけではありません。地元でのキャリア形成にも、時代に合った豊かな可能性があります。

出典

・各種統計・報道・研究データを参考に再構成


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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