1. 医療と介護「分かれているけれど、つながっている」
日本では、医療保険と介護保険は別々の制度として運営されています。
- 医療保険:健康保険組合、協会けんぽ、市町村国保などが運営
- 介護保険:市町村が運営し、40歳以上が保険料を負担
しかし、実際の現場では、医療と介護の境目があいまいになっています。
入院から在宅介護への移行、高齢者の長期療養、在宅医療の拡大――こうした課題は“医療と介護の連携”なしには解決できません。
それにもかかわらず、制度が縦割りで運営されているため、「連携の遅れ」や「財源の重複」が問題視されてきました。
2. 政府・与党の改革方針
自民党と日本維新の会の連立合意書では、社会保障改革の柱として
「医療や介護の保険者の再編統合、都道府県の役割強化などを検討する」
と明記されました。
この改革の目的は、
- 財源を効率化する
- 地域ごとの医療・介護体制を一体的に整える
- 現役世代の保険料上昇を抑える
の3点です。
政府は2025年度中に制度設計の骨子をまとめ、2026年度から段階的に実施を目指しています。
3. なぜ「都道府県の役割」が強化されるのか
これまで、医療は都道府県が中心に計画を立て、介護は市町村が担う仕組みでした。
しかし、少子高齢化が進む中で、都道府県単位での一体的なマネジメントが求められるようになっています。
背景には次のような理由があります。
- 人口構造が地域ごとに大きく異なる
→ 医療需要・介護需要を都道府県単位で把握する必要 - 医療と介護の人材が共通化しつつある
→ 人材確保・育成を一元的に進めたい - 財政の規模が大きい
→ 広域単位で保険財政を管理する方が効率的
つまり、「市町村ごとにバラバラだった制度を、都道府県でまとめて調整しよう」というのが今回の改革の狙いです。
4. 医療・介護の再編で変わること
再編が進むと、次のような変化が想定されます。
- 医療と介護の計画を一体化
→ 退院後の介護サービスまでを都道府県が調整 - 保険者の再編・統合
→ 市町村国保や介護保険の財政を広域で管理 - データ連携の強化
→ 医療・介護情報を共通基盤で共有
たとえば、在宅療養を支える仕組みが都道府県単位で整備されれば、
「退院したら行き場がない」といった課題も減る可能性があります。
一方で、地域ごとのきめ細かい対応が薄れる懸念もあり、現場の調整は容易ではありません。
5. 現役世代の保険料負担は軽くなるのか
今回の3党合意では、
「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す」
と明記されています。
これは、医療・介護制度の再編を通じてムダな財政支出を削減し、将来的な負担増を抑える狙いです。
ただし、人口構造上、医療・介護費は今後も増える見通しです。
再編による効率化でどこまでカバーできるか――
「制度の設計次第」で家計への影響は大きく変わります。
6. 専門家の視点
社会保障制度の専門家の間では、今回の方向性を「避けられない構造改革」と評価する声が多い一方、次のような課題も指摘されています。
- 制度統合の過渡期に混乱が生じるおそれ
- 現場の人手不足が制度改革を追い越すリスク
- 地域格差が広がる懸念
FP(ファイナンシャル・プランナー)としても、今後の医療・介護費の変化を見据え、
「老後資金計画」や「介護保険の民間活用」をどう設計するかが重要なテーマになります。
7. まとめ
医療と介護の一体改革は、単なる行政の再編ではありません。
それは、「誰が、どこで、どのように支える社会をつくるのか」という大きな問いへの挑戦です。
現役世代の負担を抑えつつ、高齢者が安心して暮らせる仕組みをどう作るか――。
2025年度の制度設計は、日本の社会保障の将来を左右する岐路になります。
出典:2025年10月21日 日本経済新聞朝刊「消費税『食品2年ゼロ』視野」/厚生労働省『地域医療構想と介護保険制度の連携に関する検討資料(2025年版)』
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
