■三つの働き方が「直線」から「循環」へ
ここ数年で、日本の働き方の地図は大きく変わりました。
「終身雇用か、独立か」という二者択一から、
会社員・副業・フリーランス・出向起業といった多様な選択肢が共存する時代へ。
かつては“会社を辞めたら終わり”という直線的なキャリアが一般的でしたが、
いまは一度外に出ても戻れる、いくつもの立場を行き来できる循環型キャリアが広がっています。
この変化の中心にあるのが、
- 企業に籍を残して挑戦する「出向起業」
- 会社員のまま個人活動を広げる「副業・兼業」
- 組織から完全に独立して働く「フリーランス」
の三つの働き方です。
それぞれの特徴を整理しながら、“新しい働き方の未来”を考えてみましょう。
■出向起業:企業の信頼を背に「社会に飛び出す」挑戦
出向起業は、所属企業を退職せずに新会社を立ち上げる形。
経済産業省の支援事業も始まり、少しずつ制度として定着しつつあります。
最大の魅力は、企業の看板を背負ったままリスクを取れること。
外部資金を調達し、自ら経営を担う経験を積みながら、
必要に応じて元の職場に戻ることもできる。
“挑戦と安全のバランス”を実現した新しい起業モデルです。
ただし、給与・社会保険・出資比率などの制度面はまだ発展途上。
企業と個人の間で柔軟な契約スキームを整えることが、今後の課題です。
■副業・兼業:スモールスタートから「自分ブランド」を築く
一方、副業・兼業はすでに一般化しています。
大企業でも容認が進み、地方自治体や中小企業でも“越境副業”を受け入れる動きが広がっています。
副業の魅力は、小さく始めて、自分の強みを試せること。
たとえばFP資格を活かして週末に相談業を行う、
あるいはnoteやYouTubeで情報発信し、収益化するなど、
「リスクを最小限に、自分の名で稼ぐ」ことが可能です。
副業で得たスキルや人脈が本業に還元されるケースも多く、
会社員と個人活動を両立させる“複業型キャリア”が広がっています。
■フリーランス:完全独立と引き換えに自由を手に入れる
そして三つ目が、完全独立の「フリーランス」。
近年は、クラウドワークス・ランサーズなどのプラットフォーム整備により、
独立のハードルは格段に下がりました。
フリーランスの最大の魅力は、時間と仕事の自由度の高さ。
どの案件を受けるか、どこで働くか、すべて自分で決められます。
一方で、社会保険・税金・営業活動など、すべてを自分で管理する責任も生じます。
しかし、出向起業や副業を経た人がフリーランスに移行するケースも増えており、
もはや“独立”はゴールではなく、“通過点”のひとつになりつつあります。
■三つの働き方の関係性を図にすると…
| 働き方 | 雇用関係 | リスク | 自由度 | 主な強み |
|---|---|---|---|---|
| 出向起業 | あり(出向) | 中 | 中 | 企業の信頼+社会実践 |
| 副業・兼業 | あり(本業) | 低 | 中 | スモールスタート可能 |
| フリーランス | なし(独立) | 高 | 高 | 完全自由・自分ブランド |
これらは競合関係ではなく、段階的に行き来できる関係にあります。
「副業で試し、出向起業で拡大し、フリーランスで独立する」
あるいは「フリーランスから企業に戻って出向起業に挑む」など、
人によって最適な順序は異なります。
■“選べる・戻れる・挑戦できる”社会へ
この三つの働き方に共通するキーワードは、可逆性(リバーシブル)です。
つまり、一度外に出ても戻れる、一度失敗しても再挑戦できる社会。
これは日本の雇用文化にとって、極めて大きな変化です。
かつては「出戻り」「副業」「独立」が“裏切り”と見なされた時代もありました。
しかし今は、企業も個人も「挑戦を前提とした関係」に変わりつつあります。
人生100年時代、私たちは働く期間が長くなる一方で、
一つの組織だけで完結することは難しくなっています。
キャリアは“会社の中で積むもの”から、“社会全体で積み重ねるもの”へ。
■FP・税理士の立場から見た支援のあり方
このように働き方が多様化すると、
税務・社会保険・法的リスクの管理が複雑になります。
給与所得・事業所得・雑所得の線引き、
法人化のタイミング、青色申告の要件、副業の経費区分――。
「挑戦したいけれど、税金や手続きが不安で一歩踏み出せない」
という人を支えるのが、私たち税理士・FPの役割です。
出向起業、副業、フリーランス――。
それぞれの働き方を理解し、最適な制度設計を伴走すること。
それが“挑戦を支える専門家”としての新しい使命だと感じます。
■まとめ:「組織に縛られない働き方」を自分ごとに
出向起業が登場し、副業が一般化し、フリーランスが市民権を得た今、
働き方の主語は「会社」ではなく、「個人」になりました。
もはや「どこに勤めているか」よりも、
「どんな価値を社会に提供できるか」が問われる時代。
組織を離れても、また戻ってもいい。
挑戦を繰り返しながら、自分らしい働き方を築ける。
そんな社会が、ようやく日本にも根づき始めています。
出典:2025年9月19日 日本経済新聞 朝刊
「大企業辞めずに『出向起業』、埋もれる技術に光 支援の仕組みは手探り」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
