働き方改革の現在地 待遇格差の是正はなぜ“道半ば”なのか

政策

働き方改革関連法の柱である「同一労働同一賃金」は、正規と非正規の不合理な待遇差をなくす目的で導入されました。2020年4月(中小企業は21年4月)に施行されて5年が経過し、現在は制度の見直しが議論されています。

施行から一定の成果は見られるものの、待遇改善が十分に進んだとは言い難く、改革は依然として道半ばです。本稿では、待遇格差是正の現状と課題、そして今後の方向性を整理します。

1 正規・非正規格差の歴史的背景

日本的雇用システムは、長期雇用・企業内教育・総合職を中心とした人事制度を基盤として発展してきました。しかしその裏では、

  • 正社員側に過重労働
  • 非正社員側に低処遇・不安定雇用
    という二極化が固定化されました。

1990年代後半以降のグローバル競争の激化により、企業は柔軟に雇用調整できる非正規労働者を拡大し、結果として実質賃金の停滞、生産性の伸び悩みを引き起こしています。

「同一労働同一賃金」は、この構造を正すための改革として導入されました。

2 待遇改善はどこまで進んだのか

短時間・有期雇用労働者については、

  • 通勤手当
  • 慶弔休暇
  • 法定外休暇
  • 賞与の一部
    など、手当・福利厚生面での改善が広がっています。

また、所定内給与の正規比は2019年の64.7%から22年には67.5%まで上昇しました。
一方で23年以降は正社員の賃上げが大きく、24年には66.9%へやや後退しています。

改善が不十分な分野としては、

  • 住宅手当
  • 家族手当
  • 退職金
    などがあります。基本給格差も依然として大きく、非正規の処遇は上がったものの、構造的な壁は残ったままです。

派遣労働者の賃金も上昇傾向にあり、特に事務系・製造業派遣の待遇改善が進んでいます。ただし、背景に最低賃金の引き上げや人手不足がどの程度影響しているかは判然としません。

3 “理解不足”が進まぬ改革を招いている

企業の中には、改革の趣旨や法の構造への理解が不十分なまま、制度対応が形式的にとどまっているケースもあります。

さらに、2020年の最高裁判決(大阪医科薬科大事件・メトロコマース事件)で「正社員確保のため」という理由で非正規の賞与・退職金不支給が不合理ではないとされたため、待遇改善を躊躇する企業も現れています。

施行から5年が経つ今こそ、改革の趣旨をもう一度位置付け直すことが求められています。

4 見直し案のポイント:ガイドライン強化

厚生労働省が検討中のガイドライン見直し案では、以下が示されています。

  • 待遇差の判断を“性質・目的”に基づき明確化
  • 賞与・退職金の支給について、均衡性をより重視
  • 無事故手当・家族手当・住宅手当・褒賞等も対象とする
  • フルタイム無期労働者もガイドラインの趣旨を考慮

これにより、企業が曖昧な理由で待遇差を正当化する余地を縮小し、実務の透明性と公平性を高める狙いがあります。

5 説明義務の強化:実効性の課題

現状、待遇差について説明を求めた非正規労働者は8.0%、実際に説明を受けたのは5.4%にすぎません。

見直し案では、雇い入れ時の労働条件通知に「待遇差について説明を求められる」旨を追加することが提案されています。しかし、過料が科されるとはいえ、実効性が大幅に向上するかは不透明です。

6 情報公表や行政介入による実効性の確保

企業に対して、

  • 賃金決定のプロセスの公表
  • キャリアアップ施策の公開
  • 行政機関との連携強化
    なども提案されています。

人的資本情報開示との連動も課題であり、透明性を高める取り組みが今後の焦点となります。

7 改革の本丸は「正社員制度の見直し」

待遇格差を本質的に解消するには、既存の正社員制度そのものの再構築が不可欠です。

現在、一部企業では以下のような改革が進んでいます。

  • 生活関連手当を縮小し、職務価値・生産性を重視した基本給制度
  • 転勤の原則自由化など、本人の希望を尊重した働き方
  • 主体的なキャリア形成(自律型人材育成)への移行
  • 週休3日制・フルフレックス制など柔軟な働き方の導入

こうした動きは、「正規/非正規」という二分法そのものを相対化し、より多様な働き手が活躍できる環境整備につながります。

結論

待遇格差是正は一定の成果を上げつつあるものの、

  • 住宅手当・退職金などの改善不足
  • 情報提供・説明義務の不徹底
  • 正社員制度の硬直性
    など、多くの課題が残っています。

働き方改革の目的は、正規・非正規という区分にとらわれず、能力が正当に評価され、多様な人材が活躍できる社会を作ることです。

その実現には、ガイドラインの強化だけでなく、企業自身が正社員制度を柔軟で公平なものに変えていく努力が欠かせません。

待遇格差の解消は、企業の競争力向上、生産性向上にも直結するテーマです。制度改革と企業文化の変化を両輪として進めることで、働き方改革は次のステージへ前進します。

出典

・厚生労働省「パート・有期法」関連資料
・労働政策研究・研修機構「同一労働同一賃金に関する調査」
・厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
・厚生労働省「労働者派遣事業報告」
・日本経済新聞(2025年12月記事を参考に構成)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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