個人輸入品の税優遇が廃止へ EC時代の価格競争と税制見直しのゆくえ

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近年、日本国内で「個人輸入」という形をとった格安商品が増えています。とくに中国系EC事業者による低価格販売が脚光を浴び、家電から日用品、ファッションまで幅広いジャンルで国内価格を大きく下回る事例が目立つようになりました。こうした状況を踏まえ、政府・与党が個人輸入品に対する税優遇の廃止を検討しているとの報道がありました。

この税優遇は、もともと少額の個人輸入に配慮した仕組みでしたが、EC事業者が制度を活用することで、国内事業者との競争条件にゆがみがあると指摘されてきました。今回の動きは、税制の公平性を保つ観点から、見直しが避けられない段階に入ったものといえます。

本稿では、個人輸入の税優遇がどのような制度なのか、見直しの背景、国内市場への影響、そして今後の論点について整理します。

1 個人輸入の税優遇とは

海外から商品を個人が購入し輸入する場合、一定額まで関税や消費税を免除する仕組みが設けられています。
この「簡易税率」や「少額輸入の免税制度」は国際郵便の負担軽減や行政コストの削減を目的に整備されました。

代表的な仕組みは次のとおりです。

  • 課税価格が一定以下の輸入品は非課税(少額非課税)
  • 関税率を簡易に計算する制度(簡易税率)

個人が少量を趣味や生活のために輸入する場面を想定した制度でしたが、ECの普及で状況が大きく変わりました。

2 EC事業者が個人輸入枠を活用する構図

近年、中国系ECプラットフォームを中心に、日本向けに海外から商品を発送し、形式上は個人輸入扱いとする手法が広がっています。
結果として、同じ商品であっても「国内販売」より「海外発送・個人輸入扱い」の方が税負担が軽くなり、販売価格に大きな差が生じていました。

こうした仕組みを事業者が活用することで次のような現象が起きていました。

  • 国内送料よりも安い「海外発送」が可能
  • 消費税負担を回避した価格設定
  • 国内小売との価格差が拡大
  • 税負担の公平性が損なわれる

これは制度の想定からは外れており、国会でも問題視されていました。

3 なぜ廃止が検討されるのか

報道によれば、政府・与党は「国内事業者との競争条件の公平化」を重視しているとのことです。

背景を整理すると次のとおりです。

(1) 国内流通業の不利

国内事業者は仕入れ時点で消費税が発生し、販売時にも税務処理が必要です。
一方、個人輸入扱いの商品は税負担が軽く、価格競争で国内事業者が不利になるとの指摘が続いていました。

(2) 税収の確保

消費税収は社会保障の財源として重要な位置づけにあります。免税枠の活用が広がれば、本来確保できる税収が減少するリスクがあります。

(3) 海外プラットフォーム依存のリスク

大量の低価格品が国内流通の価格形成をゆがめ、国内事業者の収益基盤を圧迫すると、将来の産業構造にも影響します。

こうした問題意識から制度の廃止・見直しが選択肢として浮上したと考えられます。

4 制度を廃止した場合の影響

税優遇の廃止は、消費者、EC事業者、国内小売のすべてに影響します。

(1) 消費者への影響

  • 個人輸入品の価格が上昇
  • 海外ECでの購入のハードルが高まる
  • 配送や通関のプロセスが複雑になる可能性

ただし、過度に低価格品へ依存している現状が是正されれば、品質や安全基準への信頼性が向上する側面もあります。

(2) 海外EC事業者への影響

個人輸入枠を使った“実質的な国内販売”が難しくなり、新たな物流・税務対応が必要になります。

(3) 国内小売への影響

税負担の公平化が進み、過度な価格競争が緩和されることが期待されます。
とくに中小の小売・専門店にとって一定の追い風となる可能性があります。

5 関税・消費税だけの問題ではない

個人輸入を巡っては税制以外にも課題があります。

  • 国内基準を満たしていない商品が流通するリスク
  • 返品・補償のトラブル増加
  • 偽造ブランド品や安全性不明な電化製品の流入
  • 国内物流網への負荷増大

税優遇の廃止はその一部に対応するものですが、EC時代の国際取引全体を見ればさらなるルール整備が必要です。

6 今後の論点

制度廃止の方向性が固まったとしても、今後検討すべきポイントは多くあります。

  • しきい値をどう設定するか
  • 税関・郵便の処理体制をどう強化するか
  • 海外EC事業者にどのような義務を課すか
  • 国内ECとの競争条件をどう整えるか
  • 価格上昇への消費者負担をどう緩和するか

ECの国際化が進む中で、日本だけが取り残されない制度設計が求められます。


結論

個人輸入品への税優遇の廃止は、単なる税収確保策ではなく、EC時代の市場構造に合わせた必然的な見直しといえます。海外から大量の低価格品が流入する環境は魅力的に見えますが、その裏には税制のゆがみ、国内産業の弱体化、安全性の問題などが潜んでいます。

今後、制度がどのように落ち着くかによって、国内小売の競争環境や消費者の選択肢が大きく変化する可能性があります。税制の公平性を確保しつつ、国際的なEC市場の発展と調和をどう図るかが、今後の議論の焦点になっていくでしょう。


参考

  • 日本経済新聞「個人輸入品、税優遇廃止へ 政府・与党」(2025年12月5日)
  • 関税制度の概要(財務省)
  • 国際郵便による個人輸入を巡る税制度(税関資料)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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