個人向け国債が増える意味──家計と財政、金融政策の交差点

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2025年に入り、個人向け国債の販売額が大きく伸びています。金利上昇を背景に、販売額は前年比で約3割増加し、18年ぶりの高水準となりました。
この動きは、単に「安全資産が好まれている」という話にとどまりません。国債市場の構造変化、日銀の金融政策転換、そして積極財政を掲げる政府の財政運営とも深く結びついています。
本稿では、個人向け国債の販売増加が何を意味するのかを整理します。

個人向け国債が再び選ばれている理由

2025年の個人向け国債の販売額は、合計で5兆円を超えました。特に伸びが目立ったのは、固定5年と固定3年といった比較的短い年限の国債です。
背景にあるのは、金融政策の転換による金利環境の変化です。長らく最低利率に張りついていた個人向け国債の利率は、2025年秋以降、1%を超える水準に達しました。
定期預金よりも高い金利が提示されるようになり、家計の資金の一部が預金から国債へと移動しています。

個人向け国債の性格と限界

個人向け国債は、国が元本と最低金利を保証する仕組みです。半年ごとに利子を受け取れる点も含め、価格変動リスクを避けたい家計にとっては安心感のある商品といえます。
一方で、利率は物価上昇率を下回っており、実質利回りはマイナスです。資産を増やす商品というより、価値の変動を抑えるための選択肢である点は冷静に理解しておく必要があります。

家計の国債保有が意味するもの

個人向け国債の販売増加は、国債市場全体にとっても意味を持ちます。
日銀は国債の買い入れを減額しており、国債の安定的な消化先の確保が課題となっています。国債の保有が特定の主体に偏ると、需給の変化で金利が急変するリスクがあります。
家計の保有が増えれば、国債の買い手が分散され、市場の安定性が高まるという期待があります。

国債発行計画と金融政策の緊張関係

足元では、国債の発行計画を巡り、金融政策への配慮を求める声も強まっています。
市場参加者からは、金利水準や政策金利の見通しを踏まえ、年限構成を慎重に検討すべきだとの意見が出ています。特に超長期債については需給の重さが意識され、減額を求める声が目立ちます。
国債発行は、財政運営だけでなく、金融市場との対話を前提に考える段階に入っています。

今後の論点──商品性と制度設計

今後の焦点は、個人向け国債の商品性をどう高めるかです。
財務省の研究会では、NISAの対象とする案や、法人への販売拡大も議論されています。海外では税制優遇と組み合わせた個人向け国債も存在しており、日本でも制度設計の余地は残されています。

結論

個人向け国債の販売増加は、家計の安全志向だけでなく、財政と金融政策の交差点を映し出しています。
家計保有の拡大は国債市場の安定に寄与する一方、金利上昇は国の利払い負担を増やします。安定性、利回り、財政負担のバランスをどう取るかが、今後の重要な論点となります。
個人向け国債は、家計と国家財政を静かにつなぐ存在として、改めて位置づけ直されつつあります。

参考

・日本経済新聞「個人向け国債、販売3割増 積極財政の支え手に」
・日本経済新聞「国債発行『金融政策考慮を』 市場参加者が注文」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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