保険生かせぬ災害列島② 企業はなぜ災害リスクに備えきれないのか

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前回は、日本が災害大国であるにもかかわらず、経済損失に対する保険補償率が3割程度にとどまっている現状を確認しました。
では、その内訳を見たとき、なぜ企業は災害リスクに十分備えきれていないのでしょうか。単に保険への理解が不足しているから、という話ではありません。企業行動や制度設計の側に、構造的な要因が存在します。

物的損害と見えにくい損害

災害による企業被害というと、建物や設備の損壊といった物的損害がまず思い浮かびます。これらは比較的評価しやすく、火災保険や地震保険の対象となります。
一方で、災害が企業経営に与える影響は、それだけにとどまりません。工場や店舗が停止すれば、売上は失われ、固定費だけが残ります。取引先を失い、事業再開後も業績が回復しないケースもあります。
こうした「利益の喪失」や「事業中断による損害」は、金額として見えにくく、評価も容易ではありません。

広がらない利益保険

事業中断や利益減少に備える保険は存在します。しかし、日本ではその加入は限定的です。
理由の一つは、利益喪失額の算定が複雑であることです。過去の実績や将来見通しをもとに算定する必要があり、企業側にとって分かりにくいと感じられがちです。
また、保険料負担に対して「本当に支払われるのか」「想定どおり補償されるのか」といった不安も、加入をためらわせる要因となっています。

災害時の資金繰りと時間の問題

仮に保険に加入していたとしても、災害直後に十分な資金が手元に入るとは限りません。大規模災害では、現地調査が難航し、保険金の支払いまでに時間がかかることがあります。
この間、企業は人件費や借入金の返済を続けなければならず、資金繰りが急速に悪化します。特に中小企業にとっては、数か月の遅れが致命的になることもあります。
保険はあくまで事後補償であり、即時の資金供給手段としては限界があるという現実も、企業側の不信感につながってきました。

欧米における企業と災害リスク

欧米では、災害リスクへの備えは企業経営の基本要素として位置付けられています。
投資家や株主は、企業に対して災害時の事業継続体制や、保険を含めたリスク管理の説明を求めます。災害への備えが不十分であれば、経営リスクとして評価されることもあります。
災害は偶発的な出来事ではなく、想定すべき経営リスクであるという認識が共有されています。

日本企業の災害対応の特徴

一方、日本では、災害対応は依然として「起きてから対応するもの」として捉えられがちです。
公的支援や金融機関の対応への期待が、保険による事前の備えを相対的に弱めてきた面もあります。また、短期的なコスト削減を重視する経営判断の中で、保険料は削減対象になりやすいという事情もあります。
結果として、災害が起きた際に初めてリスクの大きさを実感する、という構図が繰り返されています。

結論

企業が災害リスクに備えきれない背景には、理解不足だけでなく、制度の複雑さや資金繰りの現実、経営慣行といった構造的な要因があります。
災害への備えは、単なる保険加入の問題ではなく、事業継続をどう考えるかという経営判断そのものです。
次回は、こうした企業の課題を踏まえ、災害リスクに対して官民はどのように備えるべきか、公的制度や今後の方向性を考えていきます。

参考

・日本経済新聞「保険生かせぬ災害列島 損失補償3割どまり 経済の早期復旧を左右」
・日本経済新聞「#チャートは語る」関連記事
・保険業界による事業中断リスクに関する公表資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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