介護保険制度は、2000年の創設から25年を経て、いま大きな岐路に立っています。高齢化の進展により給付費が膨らむ一方、現役世代の負担は増え続けています。2026年度からは子ども・子育て支援金の徴収も始まり、社会保障全体の財源構造が見直されるタイミングです。
その中で厚生労働省は、介護サービスの2割負担の対象者拡大 と ケアプランの有料化 を同時に検討しています。どちらも長く議論されながら実現してこなかったテーマで、今回こそ改革が動き始める可能性があります。
本稿では、最新の部会資料をもとに、政府が示した案の内容や財政効果、反対・賛成の論点、そして制度利用者・現役世代にとって何が変わるのかをわかりやすく整理します。
1. 2割負担はどこまで広がるのか
現在、介護保険の利用者負担は 原則1割。
ただし、年金とその他所得の合計が 280万円以上 の場合は2割、340万円以上 で3割になります。
今回の議論では、 この「280万円以上」の基準をどこまで引き下げるか が焦点です。
厚労省が提示した案は次の4つです。
- 基準を 260万円 に引き下げる案(対象+13万人)
- 基準を 250万円 に引き下げる案
- 基準を 240万円 に引き下げる案
- 基準を 230万円 に引き下げる案(対象+最大35万人)
特に230万円案は影響が大きく、最大35万人が新たに2割負担になると見込まれています。
2. 財政効果は限定的、それでも避けられない理由
基準を230万円にした場合の財政負担の圧縮額は次の通りです。
- 給付費全体:約210億円
- 保険料(現役世代など):約100億円
- 国費:約50億円
- 地方負担:約50億円
医療費に比べると、介護給付費は規模が小さく、2割負担を広げても財政効果は限定的です。しかし、現役世代の負担が増し続ける中で、「能力に応じた負担」は避けて通れないとの声が強まっています。
一方で、高齢者団体や医療業界からは反発もあり、「インフレ下で家計に余裕がない」「所得だけで判断するのは乱暴だ」といった意見が相次ぎました。
3. 負担増に対する“激変緩和策”
2割負担の拡大にあたり、厚労省は次の2つの緩和策を示しています。
- 負担増の上限を月7,000円とする案(政令改正で実施可能)
- 預貯金額が一定以下の人は1割負担を維持する案(法改正が必要)
後者については、
- 単身300万円以下
- 同500万円以下
- 同700万円以下
など複数の基準が例示されています。
例えば、所得基準を230万円に下げ、かつ預貯金300万円以下を除外する場合、対象者は約22万人に減り、財政効果は約220億円と試算されています。
4. ケアプラン有料化という大きな論点
もう一つの焦点が、ケアプラン(居宅介護支援)の有料化です。
ケアプラン作成は制度開始以来、
全額が公費・保険料で賄われ、利用者負担ゼロ
が続いています。
しかし利用者数は約10年で26%増え、2024年度末には 294万人。
費用も 5,523億円 に増大しました。
もし1割負担を導入すれば、
約552億円の給付費抑制
となり、そのうち約149億円が現役世代の保険料の軽減につながる試算です。
5. なぜ有料化が議論されるのか
背景には次の問題意識があります。
- ケアマネジャーの業務量が増え、実質的に介護保険財源で支える範囲が広がっている
- 利用者負担ゼロであることで、サービスの選択にインセンティブが働きにくい
- 財政負担が増え続け、持続可能性が問われている
ただし、有料化には強い反対意見もあります。
- 「利用控え」につながり、要介護者の生活の質を下げる
- 低所得高齢者に重い負担となる
- 制度の趣旨(適切なサービス利用のための支援)に反する
そこで厚労省は、所得や資産の状況を考慮した限定的な負担、または特定の施設入居者(重度要介護者向け有料老人ホーム入居者など)に限定する案も示しています。
6. 現役世代の負担はどう変わるのか
2026年度からは子ども・子育て支援金の徴収が始まり、医療保険料は確実に増えます。介護保険も財源不足が続くなかで、負担の見直しは避けられません。
専門家からは次のような指摘もあります。
- 介護給付費は医療費の4分の1弱
- 介護だけ改革しても効果は限定的
- 医療費窓口負担の見直しも不可避
つまり、今回の議論は「介護だけの問題」ではなく、社会保障全体の構造問題に踏み込む端緒と言えます。
結論
介護の2割負担拡大とケアプラン有料化の議論は、単なる制度の変更にとどまらず、現役世代と高齢世代の負担のバランス、そして社会保障制度の持続性という大きなテーマと密接に結びついています。
所得基準の引き下げによって数十万人が新たな2割負担となる可能性があり、ケアプラン有料化が実現すれば、長年続いてきた「無料」の原則が大きく転換します。
制度の持続可能性を確保するためには、誰がどの程度の負担を担うべきかという社会全体の合意が必要です。今回の議論は、その第一歩と言えるでしょう。
出典
- 日本経済新聞(2025年12月2日朝刊)
「介護2割負担、最大35万人増」
「介護改革、ケアプラン有料化も論点」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

