介護分野では人手不足が常態化しており、現場を支える職員の処遇改善は長年の課題とされてきました。こうした中、政府は2026年度に予定外の「臨時の介護報酬改定」を行い、介護職員の賃金を最大で月1万9,000円引き上げる方針を示しました。
本来、介護報酬は3年に1度見直される制度ですが、今回は例外的な対応です。本稿では、この改定の仕組みと背景、そして利用者・事業者それぞれへの影響について整理します。
1.今回の介護報酬改定の概要
今回の改定では、2026年度の介護報酬を全体で2.03%引き上げ、そのうち1.95%分を介護職員の処遇改善に充てるとされています。
この結果、介護職員の給与は、フルタイム換算で最大月1万9,000円の引き上げが可能になります。
また、2025年度補正予算では、2025年12月から2026年5月までの間、同水準の賃上げを支援するための補助事業も盛り込まれています。つまり、
- 2025年12月~2026年5月:補助金による支援
- 2026年6月以降:介護報酬本体による恒久的支援
という二段構えの対応が取られることになります。
2.なぜ「臨時改定」まで必要だったのか
介護職員の賃金水準は、全産業平均と比べて低い状況が続いています。
2024年時点で、賞与を含めた介護職員の月額平均賃金は約30万3,000円で、全産業平均の約38万6,000円を大きく下回っています。
一方で、物価上昇や他産業での賃上げが進む中、介護分野だけが取り残されれば、人材流出が加速しかねません。
本来の3年周期を待たずに改定を行う背景には、「人材確保が制度の持続性に直結する」という強い危機感があります。
3.介護報酬とは何か――財源の仕組み
介護報酬は、介護サービスを提供した事業所が受け取る対価であり、事業所にとっては売上に相当します。
その財源構成は次のとおりです。
- 利用者負担:原則1割
- 残り9割
- 約半分:40歳以上が負担する介護保険料
- 約半分:国・都道府県・市町村の公費
つまり、介護報酬を引き上げれば、その分は
- 利用者負担の増加
- 保険料や税負担の増加
のいずれか、あるいは両方として社会全体に波及します。
4.利用者負担はどうなるのか
今回の改定はプラス改定であるため、利用者負担は原則として増える方向になります。
ただし、個々のサービスごとの価格や負担増の程度については、今後、厚生労働省の審議会で具体的に決められる予定です。
高齢者の中には、すでに医療費や介護保険料の負担増を感じている人も少なくありません。
処遇改善と利用者負担のバランスをどう取るかは、今後も制度運営上の重要な論点になります。
5.事業者にとっての実務上の注意点
介護事業者にとって今回の改定は、単なる「売上増」ではありません。
処遇改善分は、職員の賃金改善に確実に反映させることが前提となります。
実務上は、
- 賃金規程の見直し
- 処遇改善加算との整合性確認
- 補助金期間終了後の人件費管理
といった点を計画的に進める必要があります。
特に、補助金による一時的な支援と、報酬本体による恒久措置を混同すると、後年度に人件費負担が重くなるリスクもあります。
結論
今回の介護報酬改定は、介護人材確保を最優先課題と位置づけた、例外的かつ強いメッセージ性を持つ改定です。
一方で、その財源は利用者・保険料負担・公費によって支えられており、「誰がどこまで負担するのか」という問題は避けて通れません。
処遇改善は不可欠ですが、それだけで介護現場の課題が解決するわけではありません。
今後は、賃金だけでなく、働き方や事業運営の持続性を含めた制度設計が、より一層問われていくことになります。
参考
- 日本経済新聞「介護報酬改定 職員、最大月1.9万円賃上げ」(2025年12月27日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
