研究開発税制は、企業の成長や競争力強化を後押しする重要な政策ツールです。しかし中小企業にとっては、研究開発を続けたくても、赤字や利益変動により税額控除を十分に活用できないという課題がありました。
令和8年度税制改正大綱では、こうした実務上の壁を意識し、中小企業技術基盤強化税制について新たな見直しが行われています。特に注目されるのが、控除しきれなかった税額を3年間繰り越せる制度の導入です。
中小企業技術基盤強化税制の位置づけ
中小企業技術基盤強化税制は、一定の要件を満たす中小企業が行う試験研究費について、法人税額から一定割合を控除できる制度です。
研究開発税制の中でも、中小企業向けに控除率や上限が手厚く設計されており、継続的な技術投資を支援する役割を担っています。
一方で、赤字の事業年度では法人税額が発生しないため、税額控除そのものが使えないという構造的な問題がありました。
税制改正の全体像
令和8年度税制改正大綱では、中小企業技術基盤強化税制について次の3点が示されています。
第一に、増減試験研究費割合が12%を超える場合の税額控除率の特例および控除上限の上乗せ特例について、適用期限が令和10年度末まで3年間延長されます。
第二に、試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合に適用される同様の特例についても、同じく令和10年度末まで延長されます。
第三に、今回の改正の目玉として、控除限度を超えた税額について、3年間の繰越しを可能とする制度が新たに導入されます。
3年間の繰越税額控除の仕組み
新たに導入される繰越税額控除制度は、すべてのケースで自動的に使えるわけではありません。
適用にはいくつかの要件が設けられています。
まず、繰越税額控除を適用する事業年度において、試験研究費の額が比較試験研究費の額を上回っていることが必要です。これは、研究開発を拡大・継続している企業を対象とする趣旨と考えられます。
また、その事業年度において、一般試験研究費に係る税額控除制度の適用を受けている場合は、繰越制度を利用できません。中小企業向けの特例として、制度の使い分けが前提となります。
赤字企業にとっての実務的意義
この繰越制度の導入により、研究開発に積極的な中小企業は、赤字であっても「控除が無駄になる」リスクを減らすことができます。
将来黒字に転じた際に税額控除を活用できるため、短期的な損益に左右されず、研究開発投資を継続しやすくなります。
特に、スタートアップ期や新規事業開発に取り組む企業にとっては、資金繰りと税務の両面で心理的なハードルを下げる改正といえます。
通算法人に関する取扱い
通算制度を採用している法人については、繰越税額控除制度の適用要件を、通算グループ全体の試験研究費の額で判定することとされています。
グループ内での研究開発体制や費用配分を踏まえた、より実態に即した判定が行われる点も特徴です。
結論
今回の税制改正は、中小企業の研究開発を「黒字のときだけ支援する制度」から、「赤字でも続けられる制度」へと一歩進める内容です。
3年間の繰越税額控除は、研究開発の継続性を重視した設計であり、実務上の使い勝手も大きく改善されます。
今後は、制度の選択や要件確認を含め、事業計画と税務戦略を一体で考える重要性が高まるでしょう。
参考
・税のしるべ 2026年1月26日号
中小企業技術基盤強化税制に3年間の繰越税額控除を導入へ
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
