世界的に金(ゴールド)への需要が急拡大しています。
国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の最新統計によれば、2025年7~9月期の金需要は2000年以降で四半期として過去最高を記録しました。米金融政策の不透明感や地政学リスクに加え、「取り残される恐怖(FOMO)」に駆られた投資マネーが世界的な金ブームを後押ししています。
今回は、この動きを「投資」「中央銀行」「宝飾品」という3つの側面から整理し、個人投資家・FP・税理士の視点で今後の金市場を考察します。
投資マネーが主導する“金ラリー”
7~9月期の金需要は前年同期比3%増の1313.1トン。その中心は投資目的の買いでした。特にETF(上場投資信託)を通じた資金流入が顕著で、前年同期比2.3倍の221.7トンと過去最大を更新。金額ベースでは260億ドルに達し、新型コロナ禍直後の2020年4~6月期を上回りました。
北米と欧州のファンドが全体の9割以上を占め、短期的な利益確定を目的とした資金も少なくありません。背景には「金価格が急上昇する中で波に乗り遅れたくない」という心理があり、これがいわゆるFOMO(Fear of Missing Out=取り残される恐怖)を引き起こしています。
一方、現物の金地金やコインの需要も堅調で、前年同期比1.17倍の315.5トン。日本では7倍を超える伸びを示しており、インフレや円安に対するリスクヘッジとしての金保有が広がっています。
中央銀行も買い継続 ― 通貨不安の裏返し
金を積み増しているのは民間投資家だけではありません。各国の中央銀行も引き続き金購入を続けています。7~9月期の中銀買いは219.9トンと前年同期比1.1倍。価格が高止まりする中でも買い控えが起きにくく、1~9月の累計は634トンに達しました。
ロシア・中国・トルコなど、ドル依存を抑えたい国々が引き続き買い手の中心です。金は「国際的に信用できる準備資産」としての位置づけを強めており、通貨の分散運用や経済制裁への備えといった地政学的要因が背景にあります。
宝飾品需要は減少 ― “実需”より“投資”の時代へ
金価格が1トロイオンス4000ドル前後まで高騰したことで、宝飾品需要は世界的に減少しました。前年同期比19%減の371.3トンと落ち込み、特にインドで31%減、中国で18%減と大幅減少となりました。
これまで「贈答や装飾」としての金需要が中心だった地域でも、今では「資産防衛手段」として地金やコインを購入する動きが広がっています。高騰する相場が消費者心理を変化させ、金の位置づけを“装飾品”から“金融資産”へと押し上げています。
金価格のボラティリティと今後の展望
ニューヨーク金先物価格は9月末比で一時13.5%上昇し、10月20日には1トロイオンス4398ドルを記録しました。その後、利益確定売りにより3900ドル台まで反落しましたが、依然として高値圏にあります。
短期的には値動きの大きい展開が続く見通しです。特にETFを中心とする欧米の機関投資家は、短期で利益を確定する傾向が強いため、一方向の相場ではなく“乱高下”が起こりやすい局面といえます。
一方で、長期的にはインフレ圧力・ドル信用の揺らぎ・地政学リスクなど、金を支える構造要因は健在です。中央銀行の買い越し姿勢も続いており、「金は依然として信頼の避難先」という認識は世界的に定着しています。
結論 ― 「過熱」と「安定」の狭間で
金市場はいま、投資マネーによる過熱と、通貨分散を目的とする安定志向が交錯する局面にあります。
短期的にはボラティリティ(変動性)が高くなる一方で、中長期的には「信頼資産」としての役割を再認識する動きが強まっています。
日本の個人投資家にとっても、インフレ・円安・地政学不安といった複合リスクを踏まえ、ポートフォリオの一部として金をどう位置づけるかが問われる段階に入ってきました。
“安全資産ブーム”の熱狂を冷静に見つめ、長期的な視野での資産設計を心がけたいところです。
出典
・ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)「Gold Demand Trends Q3 2025」
・日本経済新聞「世界の金需要最高 7~9月」(2025年10月31日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

