スタートアップ育成といえば、インキュベーション施設や貸しオフィスといった拠点整備が長く政策の中心に据えられてきました。
しかし近年、地方に整備された創業支援施設で空室が目立ち、当初想定された役割を十分に果たしていない現実が明らかになりつつあります。
この記事では、地方の貸しオフィス事業が抱える構造的課題を整理し、今後のスタートアップ支援に求められる視点について考えます。
地方で顕在化する「貸しオフィス余剰」
独立行政法人中小企業基盤整備機構が整備したインキュベーション施設では、全国平均で約16%、地方では2割を超える空室が生じています。
耐水機能を備えた実験室仕様など、研究開発型スタートアップを想定した高機能施設であっても、地方では需要が限定的であることが浮き彫りになりました。
背景には、既存施設との競合があります。
自治体や国が新設した施設の近隣に、類似の公的施設や民間の貸しオフィスが並立し、需要を分散させているケースも少なくありません。
結果として、賃料収入が運営費を下回る施設も生じ、政策コストに対する効果が問われる状況となっています。
「場所をつくれば起業が生まれる」という発想の限界
貸しオフィス型支援は、起業初期の固定費を抑える効果がありますが、それだけで事業が育つわけではありません。
特に地方では、
・市場との距離
・人材確保の難しさ
・事業検証の機会不足
といった課題が重なり、物理的な拠点整備だけでは成長に結びつきにくい構造があります。
にもかかわらず、国や自治体による新設事業が続いてきたのは、成果を「整備した施設数」や「投入予算」で測りやすかったからとも言えます。
事業の成否を入居率や雇用創出、継続企業数といった指標で検証する姿勢が、十分とは言えませんでした。
成果を生んだのは「伴走型支援」
対照的に注目されるのが、岡山県西粟倉村の取り組みです。
この地域では、貸しスペースの提供よりも、起業家に寄り添いながら事業内容を磨くプログラムに力を注ぎました。
一定期間、伴走支援を行い、事業として成立するかを徹底的に検証する仕組みは、結果として多数の創業と雇用を生み出しています。
重要なのは、
・何社が入居したか
ではなく、
・何社が生き残り、地域で価値を生み続けているか
という視点です。
結論
地方スタートアップ支援において、ハコモノ整備そのものが不要になったわけではありません。
しかし、需要を十分に検証しないままの新設や、成果指標を欠いた事業継続は、もはや許されない段階に来ています。
これから求められるのは、
・既存施設の活用状況を踏まえた政策設計
・事業成長や雇用創出を基準としたエビデンス重視の評価
・人に寄り添う伴走型支援への重点化
です。
スタートアップ政策の目的は、施設を埋めることではなく、持続的に価値を生み出す企業を育てることにあります。
その原点に立ち返れるかどうかが、地方からユニコーンが生まれるかどうかを左右すると言えるでしょう。
参考
・日本経済新聞「〈エビデンス不全〉育たぬユニコーン(下)貸しオフィス、地方は空室2割超」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

