エビデンス不全が生む「育たぬユニコーン」――日本のスタートアップ補助金は何を誤ったのか

政策
ブルー ピンク イラスト メリットデメリット 比較 記事見出し ブログアイキャッチ - 1

日本政府はスタートアップ育成を成長戦略の柱に据え、2022年には「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。将来的にユニコーン企業を100社創出するという意欲的な目標も掲げられています。しかし、その中核とされた新興企業向け補助金制度を検証すると、政策目的と実態の間に大きな乖離が生じていることが明らかになっています。
本稿では、補助金制度がなぜ本来の趣旨を果たせていないのか、その構造的問題を整理します。

スタートアップ支援を名乗る補助金の実態

2021年度に始まった「指定補助金」は、研究開発型スタートアップの成長段階に応じて国が大型資金を供給する制度です。最大で100億円超の支援が可能とされ、制度規模も2024年度までに約1700億円に達しています。
制度の建前上、対象は設立15年以内の中小企業や個人とされていますが、実際の採択先を分析すると、約2割が大企業であったことが判明しました。さらに大企業グループ会社を含めると、その割合は2割を超えます。

なぜ大企業が採択され続けたのか

最大の問題は、制度設計と運用主体の分断にあります。指定補助金は内閣府が制度全体を統括していますが、実際の公募や審査は各省庁が担っています。一部省庁では当初から大企業の応募を認める公募要領を作成し、スタートアップ支援という趣旨を事実上後退させていました。
制度創設時に「弾力的な運用」を認める注釈が付されたことで、各省庁の裁量が過度に広がり、結果として既存事業の延長線上で補助金が使われる構造が温存されました。

「エビデンス不全」という政策課題

この問題の本質は、単なる運用ミスではありません。どのような企業に、どの段階で、どの程度の支援を行えば成長につながるのかというエビデンスに基づく設計が欠けていた点にあります。
大企業は既に資金調達力や研究基盤を有しており、本来はリスクマネーを必要とする初期・成長期スタートアップとは支援の必要性が異なります。それにもかかわらず、成果の測定や政策効果の検証が不十分なまま巨額の公金が投入されてきました。

ユニコーン創出との決定的なズレ

日本のユニコーン企業は現在8社にとどまり、米国や中国との差は拡大しています。この差は単に市場規模の違いだけでは説明できません。
挑戦的な事業が失敗する前提で支援する覚悟、資金供給と同時に経営人材や市場接続を伴走させる仕組み、成果が出なかった施策を見直す検証体制――こうした要素が欠けたままでは、補助金の規模を拡大しても結果は変わりません。

結論

スタートアップ支援政策に求められているのは、予算額の拡大ではなく、目的と手段を一致させる制度設計です。誰のための補助金なのか、何をもって成功とするのか、その基準を明確にし、結果に基づいて修正する仕組みが不可欠です。
既存事業の延長線上に資金を配分するだけでは、日本経済を牽引する新たな企業は生まれません。エビデンスに基づく政策転換こそが、「育たぬユニコーン」から脱却するための第一歩となります。

参考

・日本経済新聞「〈エビデンス不全〉育たぬユニコーン(上) 新興向け補助金、骨抜き」(2025年12月16日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました