インボイス制度を巡る特例措置が見直され、免税事業者からの仕入れに対する仕入税額控除は、2026年10月から7割へ引き下げられる見通しとなりました。
一気に5割へ下がる想定は回避されたものの、特例が段階的に縮小し、最終的に終了する方向性は変わっていません。
免税事業者にとって重要なのは、「制度が延命されたから安心すること」ではなく、「取引環境が今後どう変わるか」を冷静に見極めることです。
以下では、免税事業者側の立場から確認すべき実務上のポイントを整理します。
① 自社の取引先がどこまで影響を受けるか
まず把握すべきは、自社の取引先の状況です。
- 取引先は課税事業者か
- 取引先は仕入税額控除を前提に価格を考えているか
- 今後も免税事業者との取引を継続する意向がありそうか
取引先が課税事業者である場合、控除率の引き下げは、取引先の税負担増につながります。
その影響が、価格交渉や取引継続の判断にどう反映されるかを意識しておく必要があります。
② 値下げ要請が来た場合の影響を試算しているか
今後、
- 消費税相当分の値下げ
- 実質的な取引条件の変更
を求められる可能性は否定できません。
その際に備え、
- どの程度の値下げまでなら利益が確保できるか
- 一部値下げであれば対応可能か
- 継続的な値下げは事業に影響が出るか
といった点を、事前に数字で整理しておくことが重要です。
「言われてから考える」状態は、交渉力を弱めてしまいます。
③ インボイス登録をする・しないの判断軸は整理されているか
免税事業者にとって、最大の判断は「インボイス登録をするかどうか」です。
検討の際には、
- 主な取引先が課税事業者か
- 取引先から登録を求められる可能性が高いか
- 登録した場合の消費税納税額はいくらか
- 登録しない場合に失う取引はどれくらいか
「登録=不利」「免税=得」といった単純な話ではなく、取引関係全体で判断する必要があります。
④ 段階的な控除縮小のスケジュールを理解しているか
今回の見直しで、特例は以下のスケジュールとなる見通しです。
- ~2026年9月:控除率8割
- 2026年10月~2028年9月:控除率7割
- 2028年10月~2030年9月:控除率5割
- 2030年10月~2031年9月:控除率3割
- 2031年10月以降:特例終了
この流れは、「免税事業者との取引コストが徐々に上がる」ことを意味します。
取引先の判断が、ある時点で急に変わる可能性も十分にあります。
⑤ 取引先との情報共有を避けていないか
インボイス制度に関する話題は、どうしても避けられがちです。
しかし、何も伝えないまま時間が経つと、突然の取引見直しにつながることもあります。
- 登録予定がないこと
- 登録を検討中であること
- 一定条件であれば登録を考える余地があること
現時点でのスタンスだけでも共有しておくことで、取引先側も判断しやすくなります。
⑥ 課税事業者になった場合の実務負担を理解しているか
インボイス登録をすると、
- 消費税の申告・納付
- 請求書様式の変更
- 帳簿・証憑管理の厳格化
といった実務負担が増えます。
一方で、
- 取引の安定
- 価格交渉上の立場改善
- 新規取引の選択肢拡大
といった側面もあります。
税額だけでなく、事務負担も含めた全体像で判断することが重要です。
⑦ 「免税のままでいられる期間」を意識しているか
特例は2031年9月で終了予定です。
制度としては、「いずれ免税事業者との取引は原則不利になる」方向に進んでいます。
- 免税事業者のまま続ける前提なのか
- 将来的に課税事業者へ移行する可能性があるのか
- 事業規模や取引先の変化をどう見込むのか
中長期の事業計画と合わせて考える必要があります。
結論
今回のインボイス特例見直しは、免税事業者にとって「猶予が少し延びた」に過ぎません。
制度の方向性は変わらず、取引環境は徐々に厳しくなっていきます。
重要なのは、
- 何もせず様子を見ること
ではなく、 - 選択肢を整理したうえで備えること
です。
インボイス制度は、免税事業者に「判断し続けること」を求める制度でもあります。
早めに数字と選択肢を整理しておくことが、事業を守る現実的な対応といえます。
参考
- 日本経済新聞「免税事業者からの仕入れ控除、8割→7割に インボイス特例、政府・与党案」(2025年12月17日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
