食料品の消費税率をゼロにする案が現実味を帯びる中で、避けて通れない疑問があります。
それは、インボイス制度と消費税ゼロは両立するのかという点です。
どちらも「消費税の制度」ですが、実は前提としている考え方は大きく異なります。
この違いを整理しないまま議論すると、現場に混乱をもたらしかねません。
インボイス制度は「課税を前提とした制度」
まず、インボイス制度の本質を確認しておきます。
インボイス制度は、仕入税額控除を正確に行うための制度です。
- 誰が
- いくらの
- 消費税を
- 課税しているか
を取引ごとに明確にし、
課税の連鎖を可視化することを目的としています。
つまり、インボイス制度は
「消費税が課税されていること」
を大前提に設計された制度です。
消費税ゼロは「課税しない」という発想
一方、消費税ゼロは、
特定の取引について課税をしないという政策です。
ここで重要なのは、
消費税ゼロには次の2つの設計があり得る点です。
- 非課税取引
- 免税取引
この違いが、インボイス制度との関係を大きく左右します。
非課税取引の場合の問題点
もし食料品が非課税取引とされた場合、
その取引にはそもそも消費税がかかりません。
この場合、
- 売上に消費税がない
- 仕入税額控除も発生しない
ため、インボイスの役割は極めて限定的になります。
結果として、
- 食料品取引ではインボイスが形骸化
- 課税取引と非課税取引が混在
- 事業者の区分管理が複雑化
という問題が生じます。
制度としては「併存」できますが、
実務的には噛み合いにくい状態になります。
免税取引の場合の問題点
一方、免税取引として消費税ゼロを設計した場合、
話はさらに複雑になります。
免税取引では、
- 売上に消費税はかからない
- 仕入税額控除は可能
という扱いになります。
この場合、課税事業者は
インボイスを通じて仕入税額控除を行うため、
制度上はインボイスが必要になります。
しかし、
- 税率はゼロ
- 税額は表示されない
という状況で、
「税額を確認するための制度」がどこまで意味を持つのか
という根本的な疑問が残ります。
インボイスの存在意義が薄れる
消費税ゼロが広範囲に及ぶと、
インボイス制度の存在意義は相対的に低下します。
- 税額が発生しない
- 控除額の計算も限定的
- 取引確認のためだけの事務負担が残る
結果として、
事業者には事務負担だけが残る
という構図になりかねません。
特に、
- 小規模事業者
- 食品関連事業者
にとっては、
制度の複雑さだけが増す可能性があります。
「制度の目的」が食い違っている
ここで重要なのは、
インボイス制度と消費税ゼロは、
目指している方向が違うという点です。
- インボイス制度:課税の透明化・適正化
- 消費税ゼロ:物価対策・消費者支援
目的が異なる以上、
無理に両立させようとすると、
制度のどこかに歪みが生じます。
この点については、
玉木雄一郎氏も
「非課税か免税かで効果が変わる」と問題提起しています。
現実的には「両立は可能だが、きれいではない」
結論として、
インボイス制度と消費税ゼロは、
制度上は両立可能です。
ただし、それは
- 管理区分の増加
- 事務負担の増大
- 制度理解の難易度上昇
を前提とした「不完全な両立」です。
現場実務の視点では、
「制度としては成り立つが、分かりにくい」
という評価にならざるを得ません。
結論
インボイス制度と消費税ゼロは、
本質的には相性のよい制度ではありません。
- インボイスは課税前提
- 消費税ゼロは非課税・免税の発想
- 両立させると実務は複雑化する
消費税ゼロを本気で進めるなら、
インボイス制度との関係を
「そのまま残す」のか
「見直す」のか
を含めた議論が不可欠です。
制度は、
分かりやすく、運用しやすくなければ、
本来の目的を達成できません。
消費者向けの分かりやすさと、
事業者実務の現実。
この両方をどうバランスさせるかが、
今後の最大の論点だといえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「〈checkpoint〉食料品は8%安くなるのか?」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
