インボイス制度の開始以降、消費税調査や簡易な接触の場面で、
「この請求書、インボイスの要件を満たしていません」
と指摘されるケースが増えています。
インボイスの不備は、単なる記載ミスに見えても、
仕入税額控除の否認や、消費税の追徴につながる可能性があります。
本稿では、国税庁の調査方針を踏まえ、
インボイス不備を指摘されたときに取るべき実務対応を、順序立てて整理します。
ステップ① まず「不備の内容」を正確に把握する
最初にやるべきことは、
何が不備とされているのかを正確に把握することです。
よくある指摘例としては、
- 登録番号の記載漏れ
- 税率ごとの消費税額が未記載
- 適用税率の誤り
- 適格請求書発行事業者でない取引先の請求書を使用
- 記載内容と実際の取引内容の不一致
があります。
この段階で重要なのは、
「インボイス全体が否認されるのか」
「一部の記載不備なのか」
を切り分けることです。
ステップ② 形式不備か、実態不備かを切り分ける
インボイスの指摘は、大きく2種類に分かれます。
① 形式上の不備
- 記載事項の一部欠落
- 表示方法の誤り
② 実態に関わる不備
- 実際には取引がない
- 名目と実態が異なる
- 登録事業者でない者との取引
形式不備であれば、是正の余地が残る場合があります。
一方、実態不備の場合は、仕入税額控除そのものが否認される可能性が高くなります。
ステップ③ 取引先との関係を整理する
次に、そのインボイスを発行した取引先について確認します。
- 適格請求書発行事業者として登録されているか
- 登録番号は有効か
- 取引内容と請求内容が一致しているか
取引先が非登録事業者である場合、
原則として仕入税額控除は認められません。
この点は、
「知らなかった」
では済まされない論点です。
ステップ④ 是正できるかどうかを判断する
インボイス不備が指摘された場合、
次に検討すべきは
是正が可能かどうかです。
- 記載漏れであれば、修正インボイスの再発行が可能か
- 保存要件を満たす形で補完できるか
- 期限内の対応か
是正が可能であれば、
仕入税額控除が認められる余地が残ります。
一方、
- 取引自体に実態がない
- 非登録事業者との取引
の場合は、是正ではなく修正申告の検討が必要になります。
ステップ⑤ 税務署への回答は「即答しない」
税務署から不備を指摘された際、
その場で
「修正します」
「控除を取り下げます」
と即答するのは避けるべきです。
重要なのは、
- 内容を確認したうえで
- 書面・資料を整理し
- 必要に応じて専門家と相談する
という姿勢を取ることです。
インボイス不備は、
他の取引や他年度に波及する可能性があるため、
軽く扱うべき論点ではありません。
ステップ⑥ 修正申告が必要かを判断する
是正が不可能と判断した場合、
修正申告を行うかどうかを検討します。
判断のポイントは、
- 否認された場合の税額影響
- 加算税の有無
- 他のインボイス処理への波及
です。
インボイス不備は、
「形式ミス」から
「制度理解不足」
と評価が変わると、調査の深度が一気に上がることがあります。
ステップ⑦ 再発防止策を講じる
インボイス不備は、
一度指摘されると、翌期以降も重点的に見られます。
そのため、
- 取引開始時の登録番号確認
- インボイスチェックフローの文書化
- 経理担当者への周知
といった再発防止策まで実施することが不可欠です。
調査対応は、
「今回をどう乗り切るか」
では終わりません。
結論
インボイス不備を指摘された場合、
最も重要なのは、
慌てて結論を出さないことです。
インボイス制度は、
- 形式
- 実態
- 継続的な運用
のすべてが見られます。
正しい対応フローを踏めば、
- 不要な否認
- 過度な修正申告
を避けることも可能です。
AI時代の消費税調査では、
「不備があるかどうか」よりも、
不備にどう対応したかが評価されます。
だからこそ、
この対応フローを平時から共有しておくことが、
最大のリスク対策となります。
参考
・税のしるべ「6事務年度法人税等の調査事績、追徴税額が6.6%増の3407億円で過去最高に」(2025年12月8日)
・国税庁「令和6事務年度における法人税等の調査事績」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
