ふるさと納税制度は、都市と地方の財源バランス、返礼品競争の過熱、行政サービスへの影響など、多くの課題を抱えながらも、地域振興や寄付文化の定着といった大きな成果をもたらしてきました。今や制度は地方税制の枠組みを揺るがす存在となり、2026年度税制改正では「制度の持続可能性」を軸に大きな議論が交わされるとみられています。
最終回となる第5回では、制度改革の方向性を整理しつつ、2026年度税制改正で注目される論点を解説します。制度を続けるにせよ見直すにせよ、自治体・寄付者・地域産業の三者が納得できる仕組みへと再設計することが今後の焦点となります。
1. 2026年度税制改正で議論される主要論点
2026年度の税制改正において、政府・与党が議論すると見込まれるふるさと納税改革の主な論点は次の通りです。
■ ① 控除限度額の見直し
都市部の税収流出を抑制するため、寄付者が控除できる上限額に一定の制限を設ける案が浮上しています。
- 年間控除額に上限設定
- 所得区分ごとの調整
- 段階的縮小
など複数の方式があり、制度規模をどこまで縮小するかが大きなテーマです。
■ ② 返礼品経費の基準厳格化
現行の「寄付額の5割以下」という基準はあるものの、返礼品・事務費・委託費などを含めると自治体の手元に残る額が少ないケースが増えています。
今後は
- 経費上限の引き下げ
- 外部委託手数料の制限
- 返礼品基準の再定義
といった方向での議論が予想されます。
■ ③ ワンストップ特例制度の見直し
寄付が拡大した要因の一つであるワンストップ特例制度について、都市部からは「簡便すぎる」との声が強まっています。
- 制度の廃止
- 適用対象の縮小
- 申請プロセスの厳格化
などが論点に挙がる可能性があります。
■ ④ 地場産品の定義の見直し
加工の一部のみ地域内で行われている商品や、外部業者が主導する“形式上の地場産品”が増えたことを踏まえ、
- 原材料要件の強化
- 生産地の範囲明確化
などの規制強化が議論されるとみられます。
2. 都市と地方の財源調整をどう再設計するか
ふるさと納税は、従来の地方税制にもなかった「住民税の自治体間移転」という特異な構造を持っています。この仕組みが、都市と地方の財源バランスの不均衡を生み出しているため、財政調整の仕組みそのものの再設計が求められています。
■ 都市部の論点
- 住民税流出による行政サービスの圧迫
- 高齢化・子育て施策の財源確保が困難に
- 行政需要に応じた安定財源が必要
■ 地方の論点
- ふるさと納税に依存する財政構造
- 地場産業が返礼品依存になり、将来の不安定性が増す
- 持続的成長につながる仕組みが必要
これらを踏まえ、次のような改革方向が検討される可能性があります。
● 寄付流出額に応じた国による補填(交付税的調整)
都市部の行政需要を考慮し、流出規模に応じて一定割合を国が補う仕組み。
● 制度規模を適正化する「上限設定」型改革
都市と地方の収入バランスを維持しつつ、制度の利用動向を抑制。
● 返礼品依存からの脱却を促す「使途特化」型制度
返礼品ではなく、使途指定寄付を中心とした制度への移行案。
3. 地域産業の持続性を高める方向性
返礼品ビジネスは地域産業に大きな恩恵をもたらした一方で、
- 生産体制が返礼品向けに偏る
- 他販路の縮小
- 地元経済の歪み
などの課題を抱えています。
制度改革においては、次のような方向性が求められます。
■ 返礼品依存からの脱却
返礼品は地域産業振興の入り口として重要ですが、過度な依存は中長期的にリスクです。自治体は、
- 通常販路の開拓
- 観光産業との融合
- 地場産業の高付加価値化
など、多角的な地域戦略が必要です。
■ 地域経済への還元を最大化
返礼品の外部委託比率が高すぎると、実際に地域に落ちるお金は限定的になります。
- 地元企業の参入促進
- 地域内の経済循環の拡大
が不可欠です。
4. 寄付者側の行動変化も制度改革を左右する
ふるさと納税は「節税メリット」と「返礼品」が寄付行動を後押ししてきました。しかし今後の改革次第で寄付者の行動は変わる可能性があります。
● 控除上限の縮小 → 寄付意欲の低下
● 返礼品基準の厳格化 → 高額返礼品の減少
● ワンストップ制度の見直し → 手続きのハードル上昇
● 使途重視型寄付の増加 → 寄付文化の深化
寄付者の行動が制度の実効性を左右するため、利用者の視点を踏まえた改革が重要です。
5. 制度維持のための「三者の合意」が必要
ふるさと納税を持続可能な制度にするためには、
- 地方自治体
- 都市部自治体
- 寄付者
の三者が納得できるバランスが欠かせません。
そのためには、次のような方向が制度全体の妥協点となり得ます。
■ 返礼品競争の抑制
返礼品依存を抑えつつ、地域産業への恩恵を残す「ほどよい競争」にする。
■ 税収流出のコントロール
控除上限や経費規制など、制度規模を適正化する。
■ 地域振興への本質的効果を高める
返礼品だけではなく、教育・医療・子育てなど使途を明確化し、寄付が地域の未来に直接つながる構造をつくる。
これにより、制度が持続的な地域振興施策として位置づけられる可能性が高まります。
結論
ふるさと納税制度は、地方創生の象徴的な施策として広がりましたが、都市部からの税収流出や返礼品競争の過熱など、制度のひずみも同時に拡大しました。2026年度税制改正では、制度の理念と現実のギャップをどう埋めるのかが問われます。
改革の方向性としては、控除上限の設定、返礼品基準の見直し、ワンストップ特例制度の再設計などが議論の中心となります。また、返礼品依存からの脱却や、地域経済の持続的成長につなげる新しい枠組みづくりも重要です。
制度を続けるにせよ大きく変更するにせよ、これから求められるのは「地域振興に本当に貢献する制度」へと進化させることです。寄付者、自治体、地域産業の三者がともに恩恵を享受できる仕組みへ向けて、ふるさと納税は今、大きな転換点に立っています。
参考
- 日本経済新聞「ふるさと納税見直し要請」関連報道
- 総務省「ふるさと納税関連資料」
- 自治体財政・返礼品事業に関する各種統計資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
