【第9回】Vチューバーの海外展開と国際契約 グローバル市場で活動するための“新しい実務常識”

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Vチューバー市場は日本国内だけでなく、英語圏・アジア圏を中心に急拡大しています。海外ファンの増加、海外企業とのコラボ、国際イベント出演など、活動舞台はボーダレスになりつつあります。

しかし、海外展開には日本国内とは全く異なる法制度・商習慣・税務ルールが存在し、国際契約を巡るトラブルリスクも増えています。

本稿では、Vチューバーが海外進出する際に知っておくべき「国際契約」「権利処理」「税務」「リスク管理」について整理し、グローバル活動の基盤づくりを解説します。

1 海外展開が拡大する理由

海外でのVチューバー人気が拡大する背景には次の要因があります。

・YouTubeを中心とするプラットフォームの国境消失
・アニメ・ゲーム文化の浸透
・英語圏VTuberの台頭
・公式翻訳による視聴範囲の拡大
・海外企業のPR需要の増加

これにより、海外イベントや企業案件、グッズ配送など国際的な収益機会が急増しています。


2 国際契約で最も重要なのは“準拠法”と“裁判管轄”

国際契約では、まず次の2つを明確化しなければなりません。

■(1)準拠法(どの国の法律を使うか)

契約トラブルをどの法律で判断するかという規定です。

例:
・「本契約は日本法を準拠法とする」
・「本契約はカリフォルニア州法を準拠法とする」

準拠法によって“契約の解釈”自体が変わります。


■(2)裁判管轄(どこで裁判になるか)

日本で裁判なのか、相手国で裁判なのかで負担は大きく変わります。

・海外:渡航・弁護士費用・言語が大きな負担
・日本:執行手続の問題(判決の強制執行が難しい場合あり)

裁判以外にも
・仲裁(arbitration)
・調停
などの方法が契約に記載されるケースもあります。


3 国際契約の代表的な注意点(タレント側視点)


(1)知的財産権(IP)の扱い

海外企業との契約では、以下を明確化する必要があります。

・キャラクターデザインの著作権
・3Dモデルの権利
・音声・歌唱の権利
・二次利用の範囲(広告、ゲーム、アニメ)
・地域限定契約か、全世界権か
・永続権か、期間限定権か

特に海外案件では「全世界・永久利用」の文言が入ることが多く、注意が必要です。


(2)支払い条件(通貨・手数料・送金手段)

海外企業からの支払いでよくある課題は次の通りです。

・支払い通貨はドルか、円か
・為替変動リスク
・手数料負担はどちらか
・PayPal/Wise/銀行送金などの送金手段

契約書で明確にしていないと、入金額が当初と大きく異なるケースがあります。


(3)税務リスク(これが最も見落とされやすい)

国を跨ぐと税務ルールは大きく変わります。

・源泉徴収税
・国際課税(非居住者/居住者の認定)
・二重課税措置(租税条約)
・VAT(付加価値税)
・プラットフォーム課税(欧州などで導入)

特に
海外企業からの報酬に源泉税がかかるケース
は見落としがちな重要論点です。


(4)キャンセル・中断時の規定

海外案件は地理的にも言語的にも認識の不一致が起こりやすいため、
以下の規定が必須です。

・キャンセル料
・納品物の返還義務
・部分的成果物の扱い
・著作権の帰属
・損害賠償責任

曖昧な状態で契約すると、タレント側だけ負担が大きくなることがあります。


4 文化・言語によるコミュニケーションギャップ

国際案件では文化差により認識が食い違うことも多くあります。

・敬語文化がないため“きつい言い回し”に感じやすい
・曖昧表現が通じない
・スケジュールの感覚が大きく異なる
・土日や祝日の概念が国ごとに違う
・宗教・価値観が制作内容に影響する

特にPR案件では、“表現の文化差”が炎上につながるリスクもあります。


5 国際活動のための実務チェックリスト

海外展開を行う際にはタレント自身が以下を管理する必要があります。


■契約管理

・準拠法
・裁判管轄
・IP(権利)
・支払い条件
・キャンセル規定


■税務管理

・入金ごとの明細保存
・為替レートの記録
・海外からの源泉徴収の確認
・二重課税回避手続(租税条約)
・海外プラットフォーム収入の整理


■セキュリティ・情報管理

・VPNやセキュアな通信
・個人情報・住所を開示しない
・国際配送時の個人情報管理
・多言語対応のSNSリスク


6 事務所が果たすべき役割

海外展開は個人では負担が大きいため、事務所に必要な役割も明確です。

・国際契約の精査(法律専門家と連携)
・海外税務に詳しい税理士の確保
・多通貨管理(ドル・ユーロ等)
・国際送金の標準化
・多言語対応スタッフ
・海外ファン向けSNS戦略支援

事務所倒産が相次ぐ現在、事務所の体制整備も重要な競争力となります。


結論

Vチューバーの活動が国境を越えると、契約・税務・権利・文化差など、新たなリスクと機会が同時に発生します。
そのため、海外展開には“国内とはまったく違う法務・税務の視点”が必要です。

海外進出を成功させる鍵は、
①権利管理の徹底
②国際契約の理解
③税務対応の強化
④多言語・多文化への適応

の4つです。

これらを押さえることで、Vチューバーはグローバル市場で安定して活動し、長期的なブランド価値を築くことができます。


出典

・日本経済新聞2025年12月1日朝刊「SNSで契約 Vチューバー受難」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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