Vチューバーをはじめとするクリエイターの活動は、動画配信、ライブイベント、企業タイアップ、グッズ販売など多様化しています。市場の拡大とともに法的・税務的リスクも複雑になり、トラブルに巻き込まれるケースが増えています。
一方で、個人で活動するタレントの多くが、法律や税務の知識を十分に持たないまま仕事を行っていることも事実です。本稿では、タレントが絶対に押さえておくべき法律・税務リスクを整理し、自らを守るための重点ポイントを解説します。
1 契約書がないこと自体が“最大の法律リスク”
第2回でも触れた通り、SNSでの口頭合意やチャットだけの契約は、
契約内容の立証が極めて困難
という深刻な法律リスクを孕みます。
特に危険なのは次のケースです。
・報酬未払い
・追加業務発生時の境界線
・著作権の帰属
・納品後の二次利用の権利
・キャンセル時の費用負担
紛争時に「合意の存在」を証明する責任は、往々にしてタレント側に重くのしかかります。
書面契約は“トラブルを避ける”ためではなく、“トラブルに勝てるようにする”ための最低条件です。
2 著作権・肖像権・商標の落とし穴
Vチューバーの活動は、権利関係が極めて複雑になりがちです。
【タレントが注意すべき主要ポイント】
・キャラクターデザインの著作権は誰が持つか
・Live2Dモデルや3Dモデルの利用範囲
・音声（ボイス）の二次利用可否
・切り抜き動画の許諾
・グッズ化の権利
・ファンメイド活動との線引き
特に危険なのは「権利をすべて企業に譲渡させる契約」です。
これを知らずに署名してしまうと、退所後に自分のキャラを使えなくなるケースもあります。
3 事務所に所属していても法律リスクは消えない
事務所は法律的には「仲介者」であり、
タレントの代理人ではない場合が多い
点が重要です。
事務所によっては、
・契約内容の確認を十分に行わない
・タレントに不利な契約を締結
・権利関係を明確にしない
・倒産により契約不履行を招く
といった問題が起きる可能性があります。
事務所に任せきりにする姿勢は、法律上のリスクを増大させます。
4 税務リスク① “副業感覚”が生む深刻な落とし穴
タレント活動は“収入が不定期で雑多”という性質を持ち、税務上のリスクが発生しやすい領域です。
特に危険なのは次の三つです。
（1）確定申告漏れ
・企業タイアップ
・投げ銭／スーパーチャット
・グッズ売上
・音声販売
・イベント出演料
これらはすべて課税対象です。
知らずに放置すると、税務調査時に追徴課税（加算税＋延滞税）が発生します。
（2）経費計上の誤り
・衣装
・機材
・スタジオ利用料
・ソフトウェア
・外注費
これらは一定の条件で経費になりますが、曖昧な処理は税務否認される可能性があります。
（3）収入の抜け漏れ
複数プラットフォームで活動するほど、売上管理が複雑になります。
売上データを自動取得できる管理ツールを用いることが有効です。
5 税務リスク② “個人事業主としての自覚”が必要
タレントは、事務所に所属していても税務上は
個人事業主
であるケースが大半です。
押さえるべきポイントは次のとおりです。
・開業届の提出
・青色申告の活用
・収支内訳書／青色申告決算書の作成
・外注費支払時の源泉徴収
・インボイス制度への対応（課税事業者の選択）
特にインボイス登録は、企業案件を受けるタレントにとって避けて通れません。
6 税務リスク③ “事務所倒産時の未払い問題”
第1回でも触れた通り、事務所が破綻すると、
・売上資料が開示されない
・未払い報酬の額が不明
・請求自体が行えない
という問題が生じます。
税務上も、
・未払い報酬がいつの所得か
・請求書ベースの認識か、入金ベースか
・過年度修正の必要はあるか
など、処理が複雑になります。
事務所に依存せず、自分で売上情報を管理しておく必要があります。
7 法律・税務の相談先を“複数”持つことが自己防衛になる
タレントが自分を守るためには、専門家との接点を日頃から持っておくことが重要です。
・弁護士
・税理士
・社労士
・相談窓口（業界団体・自治体）
事務所に相談窓口がない場合でも、自分で外部の支援先を確保しておくことで、いざというとき迅速に対応できます。
結論
Vチューバーをはじめとするタレント活動は、自律した法律・税務知識が不可欠な時代に入りました。
契約書の有無、権利の取り扱い、収益管理、税務申告、事務所との関係性など、タレント自身が主体的に理解し、管理することで、多くのトラブルを未然に防ぐことができます。
法律と税務は“専門家に任せるもの”ではなく、
自分のキャリアを守るための必須教養
です。
今後は、タレント自らが知識を持ち、判断できるスキルを備えた者が、長く安心して活動できる時代になります。
出典
・日本経済新聞2025年12月1日朝刊「SNSで契約 Vチューバー受難」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
