Vチューバー事務所の倒産が相次ぐ中、事務所経営にはこれまで以上の統治力と透明性が求められています。タレントが個人で稼げる時代に、事務所が「所属するメリット」を提供できなければ生き残りは困難です。
本稿では、現代のエンタメ環境における芸能事務所経営の視点を整理します。
1 個人時代における“事務所の価値”とは何か
SNSと配信技術の普及により、タレントは個人でも活動できます。
その中で事務所が提供すべき価値は、次の三つに整理できます。
(1)法務・契約・税務などの専門サポート
(2)透明で公正な報酬管理と収益配分
(3)安全・健康・メンタル支援の体制
単なる「案件の仲介」というレベルでは、もはや十分とは言えません。
2 経営破綻の背景にある“無理な拡大”
新興事務所の倒産背景には共通点があります。
・急成長による管理体制の未整備
・売上の分配ルールが曖昧
・過剰な人員採用
・収益とコストのタイミングのズレ
・キャッシュフロー管理の甘さ
Vチューバー事務所は、モデル・声優・制作会社・クリエイターなど多くの外部業務が関与し、資金繰りが複雑化しやすい点も特徴です。
3 これからの事務所経営に求められる三本柱
持続可能な経営のためには、以下の三点が不可欠です。
① 経営の透明化(売上・原価・分配の開示)
タレント側が「どの案件でいくら稼いでいるか」を把握できることは信頼の根幹です。
② 強固なガバナンスとコンプライアンス
・ハラスメント対応
・相談窓口
・未成年保護
・安全教育
・労務管理
これらを“制度”として整備することで、事務所の信用力が高まります。
③ 専門家ネットワークの活用
税務、法務、ファイナンス、メンタルケアなど、外部専門家の支援は不可欠です。
内部リソースだけで全てを賄うことは現実的ではありません。
4 タレントが“選ぶ”時代への転換
市場拡大と情報公開が進むほど、タレントは事務所の質を選ぶようになります。
・報酬の透明性
・ハラスメント対策
・契約の公正性
・サポートの質
・経営の安定性
この5要素を満たす事務所は、今後の競争で優位に立ちます。
5 事務所倒産時のリスク管理
倒産時には以下の問題が発生します。
・未払い報酬の発生
・グッズ売上の未回収
・権利関係が宙に浮く
・移籍や活動継続の困難化
事務所側は、あらかじめ
・資金繰り(キャッシュフロー)の徹底管理
・補助金・融資枠などの外部資金手段
・権利管理の明確化
を整備しておく必要があります。
結論
個人の影響力が拡大し、事務所依存が弱まる時代に、芸能事務所は「透明性」「専門性」「安全性」を備えることが生存条件となりました。タレントが安心して創作に集中できる環境を提供できる事務所こそが、選ばれ、生き残ります。
市場の拡大スピードに制度整備が追いついていない今こそ、事務所経営の根本改革が求められています。
出典
・日本経済新聞2025年12月1日朝刊「SNSで契約 Vチューバー受難」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
