【第11回】Vチューバーの税務実務 インボイス制度・海外所得対応・複数収益源をどう管理するか

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Vチューバーの活動は多岐にわたり、収益は国内外の複数プラットフォーム・企業・イベントから発生します。投げ銭、企業案件、ASMRやボイス販売、海外プラットフォームからの収益など、収入形態は複雑で、その分、税務処理も高度になります。

特に近年は、
・インボイス制度
・海外プラットフォーム収益
・PayPal・外貨建て報酬
・越境消費
といった国際的な税務論点が急増しています。

本稿では、Vチューバーが実際に行うべき税務実務を「国内税務」「インボイス」「海外所得」「帳簿」などの観点から体系的に整理します。

1 Vチューバーは“個人事業主”として扱われる

事務所所属であっても、税務上は多くのケースで
タレント=個人事業主(事業所得者)
として扱われます。

したがって、

・確定申告
・事業所得の申告
・青色申告
・経費計上
・インボイス対応
・外注費の源泉徴収(場合により発生)

などの手続きが必要になります。


2 Vチューバーに多い収益と税務処理

収益は以下の分類が必要です。


■(1)投げ銭・スーパーチャット

→「事業所得」として申告
プラットフォーム手数料は経費になります。


■(2)企業案件(PR動画・商品宣伝)

→源泉徴収される場合がある
特に日本の企業案件は
出演料として10.21%の源泉徴収
が行われる場合があります。

請求書に源泉の記載を求められるケースも多いです。


■(3)グッズ売上(BOOTH、事務所経由など)

・制作費
・発送費
・プラットフォーム手数料

これらはすべて経費となります。
事務所倒産時など、売上が不明確になる場合に備え、自分でも記録の控えを持つことが必須です


■(4)サブスク(メンバーシップ・FANBOX)

定期収益の主力ですが、プラットフォーム手数料が発生します。
手数料は経費として処理可能です。


■(5)海外プラットフォーム収益(Twitch・Patreon・海外イベント)

→国際課税ルールに注意
ここが最も複雑な領域で、次の章で詳述します。


3 インボイス制度とVチューバーの実務

企業案件が多いVチューバーは、インボイス制度の影響を強く受けます。


■(1)企業案件を受けるなら登録検討が必須

企業はインボイス(適格請求書)がないと仕入税額控除ができないため、
「インボイス未登録者には発注しない」
という流れが進みつつあります。

課税事業者としてインボイス登録すると、
・消費税の納税義務が発生(年商1,000万円以下でも)
・請求書に登録番号の記載が必要
になります。


■(2)インボイスが必要なケース・不要なケース

【必要】

・日本国内企業との案件
・日本国内提供のサービス

【不要】

・海外企業との取引
・海外プラットフォームからの収益
(そもそも日本の消費税の対象外)
・BtoC(ファン向け直接販売で簡易課税適用外のケース多数)

インボイス制度は「国内消費税」の制度であり、海外収益には適用されません。


■(3)インボイスによる負担を抑える工夫

・簡易課税制度の適用検討
(タレント業は第5種=みなし仕入率50%)
・消費税の納税資金を確保しておく
・売上と消費税区分の明確化

タレント業の簡易課税は有利になるケースが多く、重要な選択肢です。


4 海外所得の税務(最重要論点)

海外所得は、Vチューバー税務の中で最もトラブルが多い領域です。


■(1)外貨建て収益(ドル・ユーロ・ウォン等)

海外からの収益は「入金日の為替レート」で円換算し、
事業所得として申告 します。

海外口座の残高は、為替差損益が発生する場合があります。


■(2)海外企業からの報酬に「源泉税」がかかる場合

国によっては、以下が差し引かれる場合があります。

・米国源泉税
・欧州の源泉税
・アジア諸国のWithholding Tax

そして、日本側で二重課税調整(外国税額控除)が必要になります。

国際税務が絡むため、記録保管が必須です。


■(3)海外プラットフォーム売上(Patreon・Twitch・Booth海外配送)

以下の処理が必要です。

・決済手数料
・海外VAT(地域によっては発生)
・外貨→円換算の方法
・売上の月次管理

特にEU圏ではVAT(付加価値税)ルールが厳しく、将来的に日本のVTuberも影響を受ける可能性があります。


■(4)租税条約の活用

海外源泉税が引かれた場合、
・日米条約
・日EU条約
などの租税条約で税率が下がるケースもあります。

税務署に「租税条約届出」を提出すれば、源泉税をゼロにできる場合もあります。


5 帳簿付け・管理体制の整備(実務の中心)

収入が多様化するVチューバーこそ、帳簿管理を徹底する必要があります。


■(1)最低限の記録

・売上(案件/プラットフォーム別)
・経費(機材・スタジオ・外注)
・外貨入金の円換算
・入金確認(遅延チェック)
・請求書/領収書の保存


■(2)青色申告の活用

青色申告65万円控除
→銀行口座分け/帳簿付けが必要
→節税効果と信用力が高い


■(3)外注費の源泉徴収

Live2Dモデラー、イラストレーター、動画編集者
などへ支払う際には源泉徴収が必要なケースがあります。

外注費の管理は、タレントが個人事業主である以上、避けて通れません。


6 事務所と税務の役割分担

Vチューバーの税務は複雑であるため、事務所が以下を担うと負担が大幅に軽減されます。

・案件の源泉徴収処理
・請求書の発行代行
・売上管理
・税理士との連携
・海外収益の明細管理
・インボイス対応の案内

事務所のガバナンスが不十分だと、タレント側が税務リスクを全て背負うことになります(第1回で紹介した倒産ケースなど)。


結論

Vチューバーの税務は、国内所得・企業案件・インボイス・海外収益・外貨管理が混在する、極めて複雑な領域です。
しかし、体系的に整理すれば、税務リスクは大きく下げることができます。

特に重要なのは次の4点です。

① 国内税務を個人事業主として理解する
② インボイス制度への適切な対応
③ 海外収益(外貨・源泉税・VAT)の整理
④ 帳簿管理と税理士との連携

この4つを押さえておけば、Vチューバーは国境を越えて活動しながら、税務の不安を最小限に抑えることができます。


出典

・日本経済新聞2025年12月1日朝刊「SNSで契約 Vチューバー受難」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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