「現金なき買収」から距離を取る市場――クスリのアオキ株高が示すM&A評価の変化

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近年の日本企業のM&Aでは、現金を使わない「株式交換」による買収が増えています。財務負担を抑えられる手法として企業側には利点がある一方、株主にとっては必ずしも歓迎されてきたとは言えません。
2026年1月、ドラッグストア大手のクスリのアオキホールディングスの株価が高値圏で推移しています。その背景には、「現金なき買収」への懸念が後退したことへの市場の安堵感があるとみられています。

イオンとの決別が意味するもの

クスリのアオキはこれまでイオンと資本業務提携関係にありました。しかし、2026年1月初旬に同社がイオン会長に対して社外取締役の退任を求め、最終的に提携解消に至ります。
この関係悪化が伝わった直後、株価はいったん下落したものの、その後急速に切り返し、上場来高値を更新しました。市場はこの動きを、経営不安ではなく「買収シナリオの変化」として受け止めたと考えられます。

株式交換買収に対する株主の本音

株式交換は、買い手が現金を使わずに自社株を対価として渡す買収手法です。親子上場の解消やグループ再編で多く使われてきました。
しかし株主側から見ると、株式交換には次のような不満が生じやすい構造があります。

  • 現金と違い、1株あたりの対価が分かりにくい
  • 交換比率が「相対評価」で決まるため、割安感が残りやすい
  • 過去の事例ではプレミアムが低い傾向がある

実際、M&A助言会社の分析では、現金TOBでは平均4割超のプレミアムが付く一方、株式交換では1割台にとどまるケースが多いとされています。
イオンモールやツルハHDとウエルシアHDの統合事例でも、株主から評価への不満が表明されました。

アクティビストの存在と買収ストーリー

クスリのアオキの筆頭株主は、アクティビストとして知られるオアシス・マネジメントです。
両社の関係が良好だった時期には、
「イオンがオアシスの保有株を買い取り、株式交換で完全子会社化するのではないか」
という観測もありました。
このシナリオでは、株主が受け取る対価の低さが懸念されていたため、今回の決別は株主目線では“悪材料の後退”と受け止められた面があります。

MBO期待が株価を押し上げる理由

クスリのアオキは、買収防衛策を株主総会で決議する方針を示しています。
仮に防衛策が否決された場合、

  • 創業家によるMBO
  • ホワイトナイトの登場

といった選択肢が浮上します。
MBOは必ずしも高値とは限りませんが、アクティビストの関与や対抗提案によって買収価格が引き上げられた事例も少なくありません。
太平洋工業やマンダムのケースでは、株主の要求によってTOB価格が大幅に修正されました。

「現金なき買収」が抱える構造的課題

株式交換による買収は今後も増える可能性があります。東京証券取引所が非効率な資本構成の是正を求める中、高値圏にある自社株を使った再編は企業にとって魅力的だからです。
一方で、

  • 株主が納得できる評価プロセス
  • 買収対価の比較可能性
  • 情報開示の丁寧さ

が欠ければ、市場の不信感を招きかねません。
米国では、対抗提案が現金で提示された場合、買収手法自体を現金中心に切り替える例も見られます。日本でも、手法ありきではなく、株主価値を軸にした判断が求められています。

結論

クスリのアオキの株価上昇は、単なる業績期待ではなく、
「現金なき買収」から距離を取ったことへの市場の評価を映し出しています。
今後の日本のM&Aでは、

  • 企業の都合だけでなく
  • 株主の納得感をどう確保するか

がこれまで以上に重要になります。
現金か株式かという手法の違い以上に、資本政策の説明責任が企業価値を左右する局面に入ったといえるでしょう。

参考

・日本経済新聞「スクランブル〉『現金なき買収』後退に安堵感」
・M&Aプレミアムに関するプルータス・コンサルティングの分析資料
・東京証券取引所 上場会社に対する資本効率改善要請に関する公表資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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