「年収の壁」の基準額を2年ごとに引き上げへ インフレ時代の税負担軽減に向けた新しい仕組み

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2025年度の税制改正を機に大きく見直された「年収の壁」。その基準となる基礎控除額について、政府・与党は今後 物価上昇率に応じて2年に1度引き上げる方針 を固めています。
物価が上がるのに控除額が変わらなければ、実質的に負担増になってしまうという問題が背景にあります。

本稿では、今回の動きがどのような制度変更を意味し、現役世代・パート勤務者・企業にはどのような影響が生じるのかを整理します。

1 「年収の壁」問題とは何か

「年収の壁」は、税や社会保険が段階的にかかり始める水準を指す言葉です。
特に有名なのは所得税が発生し始めるラインで、長く「103万円」が基準として浸透してきました。

しかし2025年度改正により、

  • 基礎控除:48万円 → 95万円(年収200万円以下)
  • 給与所得控除:55万円 → 65万円

と控除額が大きく引き上げられ、「年収の壁」は 103万円 → 160万円 にまで上昇しました。

今回の新たな議論は、この 基礎控除額を物価に連動させて2年に1度改定 し、インフレが続くなかで控除額の実質価値が目減りし続けることを防ぐ、というものです。


2 なぜ「物価連動」なのか

これまで基礎控除額は固定されてきました。しかし物価が上がれば、家計の負担は増え、控除額が据え置かれていることで実質的な増税と同じ効果が生じます。

インフレ下での据え置き → 実質的な可処分所得の減少 → パート層の就労調整の誘発

といった流れが懸念されており、働き方にゆがみを生じさせる要因にもなってきました。

政府が物価連動方式を採用する狙いは、以下の3点に整理できます。

  1. 実質的な税負担の急増を抑えるため
  2. パート・アルバイト層の就労調整を回避するため
  3. 制度改定を定期化し、市場や企業の予見性を高めるため

「毎年」ではなく「2年ごと」の調整としたのは、企業側のシステム改修負担を避けるためとされています。


3 2025~2026年の特例措置との関係

25~26年の2年間は物価高対策として、年収200万円~850万円の層を対象に、年収区分に応じて基礎控除を上乗せする特例が導入されています。

加えて、年収200万円以下については基礎控除を95万円とする大幅な引き上げが実施済み。

こうした経過措置と今回の「物価連動方式」がどのように接続されるのかは、26年度税制改正で方向性が固まる見通しです。


4 「年収160万円→178万円」へ?今後の焦点

自民党と国民民主党の協議では、現在160万円となっている所得税の壁を、当初の議論にあった 178万円にどこまで近づけるか が大きな焦点とされています。

引き上げ幅が大きくなるほど、

  • パート労働者の働き方の自由度が上がる
  • 世帯の可処分所得が増えやすい
  • 雇用側にとってもシフト調整の負担が軽減

というメリットが生まれる一方、制度の複雑化や地方自治体の住民税収への影響も論点となります。


5 家計への影響:何がどう変わるのか

今回の物価連動化は、特にパート・アルバイト層の家計に次のような影響を与える可能性があります。

(1)働ける上限が毎回少しずつ増える
物価上昇に合わせて控除額が上がるため、就労調整が起きにくくなります。

(2)可処分所得が安定しやすくなる
制度の見直し時期が明確になり、将来のシミュレーションがしやすくなります。

(3)共働き世帯の全体的な働き方の最適化が進む
扶養との関係、保育料、配偶者手当など多様な制度に影響を与えるため、結果的に家計の意思決定にプラスとなります。


6 企業側の負担にも配慮した設計

年次改定ではなく2年ごとにしたのは、企業の給与システムの更新コストに配慮しています。

企業に求められる対応は、

  • 税制改正時の給与計算ソフトの更新
  • 従業員への説明
  • 就労調整の相談対応の簡素化

といった業務がありますが、2年に1度であれば負担は軽減されます。

政府は制度の安定性と現場の実務負担のバランスを重視しているといえます。


7 「扶養制度」との関係:次の論点へ

今回の見直しはあくまで「所得税の壁」の部分ですが、家計の就労調整の最大要因は

  • 社会保険の壁(106万円/130万円)
  • 配偶者手当の支給ライン

にあるという指摘も根強くあります。

基礎控除の物価連動化は重要な一歩ですが、就労制約の解消には社会保障制度との統合的な議論が必要です。


結論

今回の「年収の壁」の見直しは、インフレ環境に合わせて税制をアップデートし、家計の負担増を防ぐための大きな一歩です。
基礎控除を物価連動で定期的に改定する仕組みは、働く人の選択肢を広げ、雇用環境の柔軟性を高める効果が期待されます。

一方で、扶養制度や社会保険、企業の配偶者手当など、家計の働き方に影響する仕組みは多岐にわたります。今回の改正はその入り口に過ぎず、今後はトータルな制度設計が課題になります。

政府が示す「2年ごとの見直し」が軌道に乗れば、働き方と税制のミスマッチを徐々に減らすことができる可能性があります。


参考

・日本経済新聞「年収の壁 2年ごとに上げ」2025年12月11日
・税制改正大綱(2025年度・2026年度予定)
・財務省資料(基礎控除・給与所得控除の制度概要)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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