大学発スタートアップはなぜ「伸び悩む」のか 日本の課題構造とこれからの成長条件

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日本の大学発スタートアップは、この10年で数が大きく増えました。特に2010年代後半以降、国の政策支援や大学の体制整備も進み、「研究成果を社会実装する」という潮流は確実に強まっています。しかし、社数の増加とは裏腹に、成長企業が生まれにくいという構造的な課題が指摘されています。存続率は9割以上と高い一方で、売上高1000万円未満の企業が半数、営業赤字も半数に達します。
本稿では、日本の大学発スタートアップが抱える「新陳代謝の乏しさ」と「大化けしにくさ」の背景を整理し、今後の成長に必要な条件を考察します。

1 社数は増加しているが、「質的課題」が鮮明に

経済産業省の調査によれば、大学発スタートアップは10年で約3倍、5000社に達しました。数だけみれば米国との差は縮まりつつありますが、企業の活動状況に目を向けると課題が浮き彫りになります。
日本では清算していなければ「活動中」と把握されるため、存続率が9割を超える一方、休眠状態の企業も少なくありません。売上高1000万円未満が約半数、営業赤字も半数に及び、黒字でも1億円以上は2%にとどまっています。
つまり、「作ること」には成功したが、「伸ばすこと」には課題が残っているという状況です。

2 米国との決定的な違いは「淘汰」と「リスク許容度」

米国の大学発スタートアップは10年間で1万社以上が設立されましたが、活動企業としてカウントされるのは知財の保有など明確な基準を満たす約2500社。存続率は25%程度で、成長企業が生まれるダイナミズムが確立しています。
背景には、失敗を許容し、成長可能性の高い企業に大胆に資金と人材を投じる文化があります。新型コロナウイルスのワクチンを実用化したモデルナのように、大学発の研究が世界的インパクトを生む例も多数存在します。
日本の場合、リスクを抑える傾向が強く、倒産は少ないものの、小規模のまま長期存続する企業が多いという特徴があります。

3 「経営人材の不足」が最大ボトルネックに

経産省調査では、CEOの7割弱が学生または研究者です。研究成果には強みがあるものの、ビジネスモデルや市場戦略を描く経験を持つ人材が少ないため、優れた技術があっても事業化が進まないケースが目立ちます。
逆に、海外では研究者とプロ経営者を早期にマッチングさせる仕組みが一般化しています。研究は研究者、経営は経営者という役割分担が確立している点が大きな違いです。

4 資金調達は増えているのに、成長企業が増えない理由

スタートアップ全体の調達額は直近10年で4倍超となり、出口経験のある経営者も増えています。資金量は増えているのに成長が進みにくい理由として、次の要因が考えられます。

  • 深い技術(Deep Tech)は事業化まで時間がかかり、それを支える長期資金が不足している
  • 研究者主導で経営判断が遅れ、市場投入が後手に回る
  • 大企業・行政との連携が限定的で、実証フィールドを確保しにくい
  • 大学や投資家側の評価指標が「社数中心」で、質の評価に移行しきれていない

社数が増える一方で、成長企業が少ない構造はここにあります。

5 求められるのは「経営人材×技術」の接続

東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)は、経営経験者と有望スタートアップのマッチングが重要と指摘します。実際、欧米ではこの「経営人材の投入」が成長スピードを左右する主要因です。
日本でもようやく、プロ経営者が技術系スタートアップに参画する流れが見え始めています。
今後は大学・VC・企業が一体となって、

  • 海外水準の経営人材プールの形成
  • 起業初期からの経営伴走
  • 大企業や自治体との社会実装フィールド拡大
    といった仕組み作りが不可欠です。

結論

日本の大学発スタートアップは量では大きく伸びていますが、質の面では課題を抱えています。淘汰が起こらないことで企業が成長しづらく、研究者主導の経営体制が事業化の壁になりやすい状況です。
鍵となるのは、リスクを取る文化の定着と経営人材の確保です。研究成果を経済価値に転換するには、技術と経営の協働が必要であり、そのための制度・資金・文化の整備が求められています。
スタートアップの新陳代謝が促され、社会実装の成功例が増えたとき、日本の大学発イノベーションは本当の意味で競争力を持つようになります。


参考

・日本経済新聞「国内の大学発新興、新陳代謝乏しく 9割存続も半数赤字」(2025年12月9日)
・経済産業省「大学発ベンチャー実態調査」
・その他、大学発スタートアップに関する各種統計・公開資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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